政府とLO、財政政策について合意

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  • 国別労働トピック:2003年11月

スウェーデンのユーロ参加をめぐる2003年9月14日の国民投票を前に、政府とブルーカラー労組連合であるスウェーデン労働組合総同盟(LO)は、ユーロ圏加入後の安定化政策について取りまとめた。与党、社会民主党とLOによれば、その目的はECの経済通貨同盟(EMU)にスウェーデンが参加することによる悪影響を緩和することである。

EMUには現在12カ国が参加しており、ヨーロッパ中央銀行(ECB)を共通の中央銀行とし、他のユーロ参加国と共通の金融、為替政策をとっている。参加国の財務大臣は一同が集まり、経済政策について議論する。スウェーデンがユーロに参加した場合、育児手当、税金などをユーロに換算するために、多くの法改正が必要になる。

LOと社会民主党の合意で基本となるのは、1998年以来、黒字になっている財政の黒字幅を拡大することである。もしもスウェーデンがEMUに加盟すれば、不景気になったとしても利下げやスウェーデン・クローネの為替レート減価により経済を刺激することができない。そのため、あらかじめ財政黒字を維持し、不況期の財政支出拡大余地を残しておく必要がある。

政府との合意は、LOがEMU加盟について中立的な立場を崩すことを意味していない。しかし合意内容は、低利子率、低い物価水準、高い実質賃金をもたらすと考えられ、LOの組合員が国民投票で賛成票を投じてもよいと思うような内容になっている。

政府とLOは、今回の合意内容について2003年春に合意していたが、その後、LOは2000年の国会決議に沿って、EMUに賛成する条件として不況対策の基金創設を要求していた。最終合意は、この基金について全く触れていない。

景気変動があっても財政黒字をGNPの2%から2.5%に維持することに政府とLOは合意した。EMUは同3%以下を課している。もしもスウェーデンがEMUに加わらない場合でも、高齢化の進展に備えて、財政黒字を維持すべきであることに変わりはない。ただしEMUに加わる場合には、景気調整のために財政政策が担うべき役割がより大きくなる。

社会民主党とLOは、景気が悪化した場合には、付加価値税、社会保険料使用者負担、所得税などを国会が軽減するように求めている。景気が回復するまでは、増税のタイミングを遅らせる必要があると考えている。また、地方税にも同様の対応を迫ることで合意している。さらに労使代表で構成される審議会を新設し、経済政策について政府に助言することに同意した。

LOのルンドビ‐ウェディン委員長は、LO内部のユーロ参加反対派から批判を受けている。LOはユーロ参加について公式に中立の立場をとっているが、同委員長は、言葉を選びながらも明らかにユーロ賛成と受け止められる発言を繰り返した。上述の労使で構成される経済政策の審議会に労組が参加する点についても同委員長は反対派から批判されている。LOのなかでは、金属、製紙労働者はユーロ賛成派で、運輸、小売業の労働者はユーロ反対の立場をとっている。概して、LOでは、組合指導者のなかに賛成派が多いが、ブルーカラー労働者の過半数は反対という状況である。

9月14日の国民投票の結果、賛成42%、反対56%、白票2%でユーロ参加は否決された。事前の世論調査によれば、与党社会民主党首脳部のユーロ参加賛成にもかかわらず、社会民主党支持者の過半数は反対していた。他の政党では、環境党と旧共産党が強くユーロ参加反対を唱えていた。そのため、ふだんは社会民主党に投票する多くのブルーカラー労働者が、環境党や旧共産党の立場を好ましいと考えている。ユーロ賛成については社会民主党は右派政党や産業界と歩調を合わせている。ところが、予算成立のためには、少数派与党である社会民主党は環境党や旧共産党と協力関係にあった。ユーロ参加反対が決まったことで、環境党や旧共産党が政府の政策決定に、より大きな影響力を及ぼす可能性がある。

環境党は、すでに社会民主党との交渉を通じて様々な政策を実現した。高所得者に適用される所得税の累進度引き上げや、医療、高齢者ケア、育児施設などを所管する地方政府に対する中央政府からの補助金増額などがその例である。一方、旧共産党は、2003年7月1日以来、所得の80%から78%に引き下げられている傷病手当を再び元の水準に引き上げるように、2003年9月1日現在、社会民主党と交渉を続けている。労組は、この傷病手当引き上げを支持している。社会民主党がこの引き上げに難色を示しているのは、単に歳出圧縮のためである。

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