政府、一般労使協議指令の国内法化案を発表

カテゴリー:労働法・働くルール労使関係

イギリスの記事一覧

  • 国別労働トピック:2003年11月

政府は7月、EUの一般労使協議指令を国内法化するための具体案を発表した。同指令の正式名称は「欧州共同体における情報提供および協議を受ける労働者の権利を改善するための一般的な枠組みを定める欧州議会および理事会の指令」。イギリスは伝統的に労使関係のボランタリズムを重んじてきたが、同指令は、労働者に一定程度の企業参加を法的に保障するものであるだけに、労働党が1997年に政権復帰して以来最も大きな変化を職場にもたらすといわれている。

一般労使協議指令

同指令が「一般」労使協議指令といわれるのは、多国籍の大企業だけを対象とする「欧州労使協議会指令」とは異なり、国内だけで活動する中小企業にも適用されるためであり、また大量解雇や企業譲渡などの特定項目だけの情報提供を定めた「大量解雇指令」や「企業譲渡指令」と異なり、特定項目に限らない情報提供を定めているためである。

国内法化案

政府案によると、同指令が国内法化される時期は、従業員150人以上の企業については2005年、従業員50-149人の企業については2008年、となっている。

従業員が使用者から情報提供と協議を受けるための手続きを開始するには、従業員の10%による文書での要望が必要である。ただし、最低15人の従業員の要望が必要なので、国内法が適用される最小規模の企業、つまり従業員50人の企業の場合、従業員の10%ではなく、約3分の1の要望が必要になる。逆に、2500人以上の従業員の要望があれば全従業員の10%を下回っても手続きが開始できる。

こうした条件を満たした要望がなされた場合、使用者は全従業員による投票を実施しなければならず、40%以上が賛成すれば、情報提供・協議の具体的な取り決めについて従業員代表と交渉し合意へ向けて努力しなければならない。

使用者は、従業員に情報を提供し協議しなければならない諸問題を踏まえて、「企業活動および経済状況の最近の動向と今後の見通し」を情報・協議委員会に知らせなければならない。さらに従業員代表は、雇用に影響を与える問題について使用者に協議を求める権利を持ち、この権利は、人員整理や事業移転など、職場組織や契約関係に実質的な変化をもたらす可能性のある決定にまで及ぶ。

協議はただ開催しさえすればすむというものではなく、あくまで合意に達することを目的に開かれなければならないので、使用者にはかなり大きな負担になると見られている。一方、今回の案では、従業員に対して年金制度の変更について協議することを義務づけている。

労使の反応

今回の政府案に対して、労組は概ね好意的に受け止めている。民間で最大の労組であるアミカスのロジャー・リオンズ書記長は、イギリスがこれまで他のEU諸国に生産性で遅れをとってきたのは、労働者と使用者との情報交換や意思疎通の面での閉鎖性によるところが大きかったが、今回の政府案は、こうしたイギリスの「秘密文化」を打ち破るのに寄与するものであると、評価している。

他方、使用者は、近年の半導体セクターなどに見られるように、市場が急速に縮小していった場合に企業はこれに迅速に対応できるのかなど、指令が企業の意志決定プロセスに与える負の影響を懸念している。

関連情報