私営企業での雇用が急激に増加

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  • 国別労働トピック:2003年10月

国家統計局が公表した、「2001年第2回全国基本単位調査結果」によると、私営企業の急成長に伴い、私営企業で雇用が急速に増加していることが明らかになった。各地方政府や中華全国総工会は、私営企業でのさらなる雇用の増加や組織化を計画している。

1.概況

今回の調査結果によると、私営企業数は、1996年から2001年までに44万3000社から132万3000社に増加し、年平均24.5%の増加率を達成した(注1)。同期、労働者数は、802万2000人から3170万3000人に増加し、年平均31.6%の増加を記録した。企業の経営規模を表す資本金を見てみると、3043億元から1兆4068億元に増加し、年平均35.8%増加した。また、年間の企業収入は、4110億元から3兆1883億元に増加し、年平均50.6%の成長率を記録した。(注2)

全企業に占める各種指標は、2001年末現在で、私営企業数は全企業数の43.7%を占めるまでに増加し、1996年より26.9ポイント増加した。私営企業の労働者数は、全労働者の19.2%を占め、14.8ポイント増加した。資本金は全企業資本金の10.3%を占め、7ポイント増加した。年間の企業収入は13.2%に達し、11.2ポイント増加した。

2.業種別の企業数

業種別の企業数を見てみると、製造業は相変わらず増加しているものの、全体に占める比率はやや減少し、代わって卸・小売業、貿易業、飲食業の企業が急速に増加した。

2001年末現在、私営企業のなかで、製造業関連企業は63万9000社あり、私営企業全体の48.3%を占めているが、1996年より11ポイント低下した。卸・小売業、貿易業、飲食業関連は、39万6000社あり、29.9を占め、1996年より7ポイント増加した。

また、全体に占める比率は小さいものの、近年急速に増加したものに、不動産業と観光業がある。不動産業は、1562社から2万2024社になり、年平均69.8%の大幅な増加を記録した。これは、都市の富裕層が、住宅を購入できるほどの資金を持ち始めたことによる。観光業は、125社から2496社、年平均82%増加した(注3)。コンピューター関連のサービス業は、1220社から1万6734社、年平均68.8%増加した。

3.企業規模

2001年末現在、従業員数が50未満の小企業は、119万7000社で、全体の90%を占め、相変わらず小規模な企業が圧倒的に多いが、前回よりは3.8ポイント減少した。

従業員数が50人以上から500人未満の企業は12万3000社で9.3%、3.6ポイント上昇した。従業員数500人以上の企業は3792社、1996年の15倍になった。このなかで従業員数が5000人以上の企業は、1社から17社に増加した。

2001年末現在の1社当たりの平均従業員数は24人で、これは、1996年の6人から4倍に増加した。
平均資本金は106万元で55.9ポイント増加し、年間営業収入は241万元で2.6倍に増加した。

4.発展状況の地域別の特徴

私営企業は、市場経済発展の起爆剤となった経済特別区である東部沿岸地域に集中する傾向が強い。こうした地域に95万3000社、全私営企業の72%が集中している。これは1996年と比較すると、70万7000社、年平均31.1%増加した。

私営企業の多い地域は、江蘇省、浙江省、広東省、上海市、北京市で、この5省市に65万8000社が集中している。

一方、中西部は、私営企業の発展が遅れている。

中部地域の私営企業は23万社で、全体の17.4%を占め、1996年より9万4000社、年平均11%増加したが、増加率は、東部に比較すると20.1ポイント低かった。

西部地区の私営企業は14万社に達し、全体の10.6%を占めた。これは、1996年比、7万9000社より年平均18.2%増加したが、増加率は東部地域より12.9ポイント低かった。

これらの事実は、私営企業の発展速度が、東部、中部、西部の3地域で不均衡な状態にあることを如実に示している。現状では、経済発展地域に私営企業が起業、あるいは移転され、それが、経済を発展させ、その結果さらなる私営企業の興隆を招く発展パターンが定着している。この不均衡状態は、今後も続くものと予想されている。

この原因は、国有企業は、計画経済体制下により全国に配置されたため、現在においても経済発展の地域間格差をある程度緩衝するのに貢献している。それに対し、私営企業の場合、小さい経営規模のなかで市場競争の波にさらされながら、成長を遂げるには、事業展開するうえで有利な地域を選択せざるをえないのが事実である。

このような結果から、改革開放政策以後続いている、中西部から東部への地域間労働移動は今後も引き続き行われるものと予想される。また、中西部の省・市政府が近年進めている経済発展地域への余剰労働者の送り出し政策は今後さらに強化されるものと予想される(注4)。

5.労働市場における役割

国有企業は、市場経済化の進展、中国のWTO加入という外部経営条件の激変のなかで、余剰労働者を整理せざるをえなくなった。そうした中で、党と政府は、政権と社会の安定を維持するために国有企業の下崗労働者対策を労働政策の重点事業にして取り組んできた。

下崗労働者は、2002年だけを見ても、前年の515万人から105万人(20.4%)減少し410万人になった。2002年中に、再就職服務センターに登録している労働者のうち、延べ120万人の下崗労働者が再就職を果たし、その再就職率は、26.2%に達した。

この背景には私営企業の発展が大きく貢献してきたことが、今回の調査からも明らかになった。1996年から2001年までの5年間に、私営企業の労働者数は802万2000人から約4倍の3170万3000人に増加したが、各地域で、国有企業が余剰労働力を抱えているなかで、下崗労働者の最大の受け皿となっている。

6.労働者の起業・出資に関する促進政策

国務院の各部は、下崗労働者の起業については、各種優遇政策を打ち出している。

地方都市では、上海市が2003年7月、私営企業などに対する出資規制を大幅に緩和し、中国で初めて、国有企業の労働者や他の都市の住民による出資を認めた。これは、成長力のある私営企業の起業を促進し、雇用機会を増加させることを目的としている。

この背景には、私営企業が台頭しているものの、信用力や資産の不足から国有銀行からの融資を受けられないケースが多く、資金難から起業や事業の拡張を制限されることも多く、こうした状況を打開しようとする目的がある。

市政府の試算では、上海市民の個人貯蓄は、2002年末現在で4100億元に達しており、13万元の出資により、1人分の雇用が生まれると見積もっている)。

7.労使関係

私営企業は、経済発展のうえでも、労働者に対する雇用機会の提供といううえでも社会的貢献度が広く認められてきているが、いくつかの面で問題も引き起こしている。その1つが労使関係である。

近年、一部の私営企業では、経営者自身が労働組合に加入し、組合活動に影響を及ぼす傾向が見られる。

こうした傾向について、中華全国総工会系の大学である中国工運学院の呉亜平教授は、次のように指摘している。

  • 私企業の経営者が、組織的に弱い労働組合に加入し、労働組合員として活動を行えば、労働組合の存在が不安定になり、組合運動が弱められる。
  • 労働法第7条では、「労働組合の代表は、労働者の合法的権益を保護する」と明確に規定し、労働組合法第2条では、「中華全国総工会およびその各労働組合組織は、労働者の利益を代表し、法律により労働者の合法的権益を保護する」と規定している。もしも、私企業の経営者が労働組合に加入すると、法的に規定された労働組合の主体が不明確になる。
  • 労使間で団体交渉を行い、労働協約を締結しようとする場合、労働者の代表を経営者が兼務している場合は、労働協約の締結は極めて形式的なものになる)。

ただし、こうした事情の背景には、近年、中華全国総工会が、急速に発展する私営企業で積極的に組織化を進めてきたが、組織化を急いだあまり、経営者や基礎工会に十分に組合活動の趣旨が徹底されていないという原因もあると見られている。

1990年代、経営的に弱い国有企業が、合併や閉鎖を迫られるなかで、基礎工会数は、減少していった。こうした状況下、中華総工会は、新興の私営企業や農村部での組織化運動を強化した。また、官製の組合という政策方針を一部改め、労組に積極的な労働組合運動をするよう指導し始めた。

しかし、経営者側から見ると、中華全国総工会は、中国共産党の最強の支持基盤であり、単なる一労働団体ではなく、中国共産党と政府の後ろ盾のある存在である。企業内に組合を組織化すれば、大型国有企業の労組が提出するような要求を出され、起業したばかりの経営的に弱い状態で重荷を背負うことになり、その結果、市場経済のなかで淘汰されるのではないかと危惧し、組合運動を制限するよう先手を打たざるをえなかったという意見も出ている。

今後、中華全国総工会が、どこまで「官製」組合からのさらなる脱皮を図るのか、再度戦略の練り直しが必要になりつつある。

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