(香港特別行政区)政府、中国と経済貿易協力強化(CEPA)に合意

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2003年9月

中国に対する反体制活動を制限する国家保安立法(基本法23条立法)をめぐって香港市民の反対の動きが高揚する中、温家宝中国首相を迎えて2003年7月1日に香港返還7周年記念式典が行われたが、これに先立つ6月29日、香港企業と専門技術者に中国本土市場への接近を外国の競争者に比して容易にする、香港にとって画期的な中国との経済貿易協力強化(Closer Economic Partnership Arrangement: CEPA)の合意文書が成立し、温首相と董建華特別行政府(行政)長官がこれに調印した。

このCEPAの合意は、経済的には中国の世界貿易機関(WTO)加盟による外国製品に対する関税撤廃等と密接な関係をもつ動きであるが、他方、3月半ばから猛威を奮ったSARSによる香港経済、雇用市場の打撃に対して、その回復に中国政府が助力し、国家保安立法についての市民の不安に対して、中国新指導部が香港返還後の「一国二制度」体制の維持を引き続き重視することを示すという思惑もあった。すなわち、中国はWTO加盟に基づく義務として、外国製品に対する関税撤廃、サービス業の市場開放等を義務付けられているが、CEPAは、一定品目の関税撤廃と一定種類のサービス業の市場開放等を、他の海外諸国に先駆けて香港に対して認めるものなのである。

以下、CEPAの主な内容とこれに対する評価の概略を記する。

(1)CEPAの主な内容

  1. 香港企業の製品273品目に対する関税を2004年1月から撤廃するが、これには電機・電子製品、プラスチック・紙製品、繊維・衣料品、化学製品、医薬品、時計類、宝飾品、化粧品、金属製品等が含まれている。そして遅くとも2006年1月までには、他の品目の香港製品に対しても関税をゼロにする。
  2. サービス業分野の17業種を香港企業に開放して市場参入を容易にするが、この業種には、経営コンサルティング、広告、会計、建設・不動産、医療、流通、ロジスティックス、貨物運送、倉庫・保管、輸送、観光、映画・テレビ、弁護士、銀行、証券・保険等が含まれる。銀行関連では、香港の銀行が中国本土に支店や法人を設置する場合の資産規模が引き下げられ、設置が容易になっている。また、映画関連では、香港映画が中国国内で「国産映画」として扱われ、中国映画保護のために設定されていた年間20本の外国映画の輸入枠に、香港映画は含まれないことになり、さらに、映画・テレビ製作で設けられていた香港人スタッフの割合を制限する比率も緩和される。
  3. 貿易と投資を容易にするために、中国が手続き面の簡略化と香港との協力体制を強化することにコミットし、これには通関手続き、検疫・審査、品質保証、食品安全検査、漢方薬・医薬品審査、法律規則の透明性確保等の分野が挙げられている。
  4. 広東省からの観光客の入境制限を2003年7月28日から段階的に撤廃し、SARS禍で大きな打撃を受けた香港観光業の回復促進にも役立たせる。従来中国本土からの観光客は団体としてしか香港に来れなかったが、この制限撤廃は、広東省の南部3都市から始めて、個人としての同省からの観光客の入境を認めるものである。2002年の本土からの観光客680万人(前年比50%増)の40%は広東省からであり、同省からの観光客の増加は香港の経済・雇用にとって極めて重要で、遅くとも2004年7月までには同省全域からの個人観光客の入境を認める。これは懸案の珠江デルタ地域の統合にも資することになる。

(2)CEPAに対する評価

概略以上のようなCEPAの合意に対して、香港経済界・エコノミスト等は、香港が中国市場をめぐる外国企業との競争で優位に立ち、また、他国に先立つ関税撤廃であることから、香港に対する外国資本の投資を呼び込む可能性もあり、香港の経済と雇用の回復にとって重要な合意だと評価している。

香港産業連盟(FHKI)のアンドリュー・リョン副会長は、今回関税が撤廃される273品目は香港からの輸出の90%を占めており、WTOに加盟した中国が将来他の諸国に対して関税を撤廃しても、香港の製造企業は外国のライバル企業に対して競争上優位に立ったとして、経済効果を評価している。同会長は、なかでも関税の高かった時計類、宝飾品、化粧品等の高級品製造企業の優位性を見ている。また経営学のプリシラ・ラウ・ポリテクニク大学助教授も、CEPAによって香港企業が外国のライバル企業より約2年早く中国市場に参入できることになり、それだけ早く同市場に適応できる優位性を強調している。

また、FHKIが加盟企業に対して行ったアンケート調査では、回答企業の4分の1で香港に製造拠点をもたない企業が、中国への輸出品の関税が撤廃される利益を生かして、香港域内に製造工場を設立することを考えているとしている。このような調査から、FHKIは、香港の製造企業が廉価な土地と労働力を求めて中国南部に生産拠点を移す長期的な傾向に歯止めがかかり、またサービス業に対する中国市場の開放により、銀行等のサービス部門が香港を地盤にして優位に発展する可能性もあるとしている。

さらに、SARSの影響に止まらず、このところ低迷が続き、推定1万人の映画関係者の約7割近くが失業・半失業状態とされる香港映画界は、規制緩和による13億人の中国市場への進出に大きな期待を寄せており、観光業界も、中国人観光客が香港訪問で平均5000ドル以上使うことから(2002年度)、広東省からの個人観光客が認められることによる観光業の振興とその経済・雇用効果に期待している。

ちなみに香港政府は、CEPAにより香港の輸出企業が7億5000万ドルの関税を免れると見積もっているが、雇用創出等については具体的数字は挙げていない。だが、ヴィッキー・デービスFHKI事務局長は、現在約20万人の香港製造業部門で、企業の製造拠点が香港に戻され、また新たに香港に設立されることなどで、控え目に見ても2万~3万人の雇用が同部門で創出されると見積もっている。

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