化学労組、賃上げと訓練職増設で協約締結

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年8月

化学業界の賃金協約交渉は、2003年度の労使の最初の大きな協約交渉として注目されていたが、交渉は5月8日に妥結し、柔軟路線で知られる化学労組(IG BCE)は、約58万人の被雇用者のために、2.6%の賃上げと訓練職の創出を内容とする賃金(労働)協約を連邦化学使用者連盟(BAVC)と締結した。

まず賃上げに関しては、賃上げ率が2.6%で、有効期間は13カ月である。賃上げ開始時期は地区に応じて異なり、一部の地区では遡及するが、時期は2003年5月、6月、7月となる。そして既に経過した月に対しては、被雇用者は一時金40ユーロの支給を受けることになる。

今回の交渉で、化学労組は通常行われる賃上げ要求による具体的要求額を示さず、インフレ率と生産性の向上との調整を要求するに止まり、この点でも柔軟な手法を示したが、さらに締結された協約の賃上げ率2.6%も、厳しい労働市場状況の下で現在行われている他の産業部門の2003年度の協約交渉に対して、重要な基準を示すことになると考えられている(統一サービス業労組Verdiなどは強硬で、印刷・製紙業や商業部門で、3~3.5%の賃上げ要求の貫徹を目指しており、警告ストを準備している)。

次に、今回の協約で注目される訓練職の創出については、連邦レベルでこのような訓練職の創出を義務付ける協約は初めてのものであり、化学労組の柔軟性を端的に示すものである。すなわち、シュレーダー首相が「議事日程2010年」で訓練職の増設を怠る企業に対して立法処置で課徴金を課すとしているのに対して(本誌2003年6月号参照)、それによらない労使の労働協約による柔軟な対応を示したものである。

具体的に締結された内容は、労使協議で、必要な場合には向こう数年間訓練職の報酬額の凍結が行われる代わりに、使用者側は合意された訓練職の増加を義務付けられるとするもので、2004年度は1.7%の訓練職の増加を義務づけられている。具体的な人数については、2003年度の訓練職市場の調査結果が年末に出た時点で、その枠内で確定される(2002年度は、化学業界で8000人の若年者が新たに訓練職に就き、化学労組によると、現在化学業界の訓練生の総数は2万5000人とされている)。

シュモルト化学労組委員長は、今回の労働協約での訓練職に就いての取り決めは、「雇用のための同盟」で問題になった訓練職の増設の要求にも適うし、「議事日程2010年」に示される企業に対する訓練職増設の立法的強制によらないでも、労使間の取り決めで建設的に対応できることを示したものだとし、化学業界が選択したこの手法を他の産業部門にも推奨できるとしている。

シュレーダー首相の改革路線に対しては、現在労組が抵抗勢力となっており(1参照)、また最有力労組のIGメタルでも、強行派のペータース氏が次期委員長に指名され(本誌2003年7月号参照)、今後の同首相の改革路線の断行との関係で、労組の動きが問題になるが、そのような中で、化学労組の柔軟路線は、労組が一枚岩でないことを示すと同時に、今後の労働市場改革の動きとの関係でも注目される。

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