IGメタル、新委員長に強行派ペータース氏指名

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年7月

ドイツの最有力産別労組である金属労組(IGメタル)のクラウス・ツビッケル委員長が2003年10月に勇退することが決まっており、その後継者を巡る争いが水面下で進行していた。この争いは、同労組内の改革派と強行派の路線闘争とも関係しており、今後のドイツの労働運動の中核を担うリーダーの打ち出す路線に拘わるため、各方面で注目されていたが、2003年4月8日に開かれた執行部の全体会議で、強行派のユルゲン・ペータース氏が次期委員長に指名された。

IGメタルでは従来から改革派と強行派の路線闘争があり、ドイツ産別の最有力労組だけに、その行方が労働界全体に与える影響は無視し得ないものがあった。従来改革派の旗手とされていたのは、ドイツ最大州のノルトライン・ウェストファーレン州の地区委員長を務めていたハラルド・シャルタウ氏(50才)で、ツビッケル委員長の後継者競争でも有力候補の一人と目されていた。同氏は、連邦最大州の特徴を生かして、1999年9月に近隣のオランダ、ベルギーの指導的労組代表者と会合を開き、欧州連合(EU)におけるユーロ導入を踏まえて、3国労組間の協調的賃金政策の検討を模索し、また同地区の賃金協約交渉に、オランダ、ベルギー両国の労組代表をオブザーバーとして招くなど、様々な場面で斬新なアイディアによるイニシアティブを発揮し、改革派の若手ホープとして嘱望されてきた(本誌1998年11月号参照)。しかし同氏は、現連邦経済労働大臣であるヴォルフガング・クレーメント氏(社会民主党SPD)が同州首相を務めていた2001年に、州労働社会大臣に抜擢され、労働界から政界に転じた。同氏は、現在も同州SPD会派代表という、SPD内でも有力ポストに就いているとともに、引き続き州労働大臣を務めている。

シャルタウ氏が委員長の後継者競争から抜けてから、後継者候補は他の有力者2人に絞られた。今回後継者争いを演じたその一人のペータース氏(59才)は、強行派のリーダーで、1998年以来IGメタルの副委員長であり、一般組合員の声をくみ取る能力に優れていると言われ、妥協を許さない闘争性によって、ストのような強行手段に訴えるときにリーダーシップを発揮してきた。他方、対抗馬だったベルトルト・フーバー氏(53才)は改革派に属し、金属業界の賃金協約交渉の帰趨を決める有力地区であるバーデン・ビュルテンベルグ州の地区委員長を現在務めている。IGメタルは、従来ドイツ全体の賃金協約交渉をリードしてきたが、フーバー氏はその賃金協約交渉で、業界の使用者団体である金属連盟を相手に、賃金問題専門家として指導的な役割を果たしてきた。

今回の指名決定前に、自身はIGメタルのみならず労働界全体でも強行派に属するとされたツビッケル委員長は、後継者候補として改革派のフーバー氏を推した。従来の慣例では、IGメタルの委員長の後継者は副委員長が指名されるのが決まりだったから、これは異例なことだったが、ツビッケル氏が最近改革派に慎重な変身を遂げたことと、同氏とペータース氏との確執が背景にあったと言われている。そして、執行部の常任委員会(10人)はツビッケル氏の推薦にしたがってフーバー氏を後継候補に推したが、4月8日の執行部の全体会議(41人)は、決選投票の末、絶対多数でペータース氏を後継候補に指名し、フーバー氏をペータース氏の後釜の副委員長に指名した。この決選投票の結果は、フーバー氏を推したツビッケル委員長にとっては手痛い敗北となったが、ペータース氏が全体会議で敗れた場合に10月の組合大会で争う姿勢を示していたことから、全体会議がIGメタルのひび割れを憂慮し、一致団結を優先したことが背景となっている。

このような経緯で委員長と副委員長に指名されたペータース氏とフーバー氏は、政策的にも大きな違いを示している。フーバー氏は改革派として、多くの議論のある産業別労働協約を現代化し、協約で一律に賃金水準を決定するのではなく、企業の業績に応じて差別化した協約締結を認めるべきだとして、経済界の要望に歩み寄る姿勢を示し、大手自動車企業の経営協議会幹部からも支持されている。また同氏は、IGメタルをホワイトカラーである職員(Angestellte)にとってもっと魅力あるものに改革する意向も示しており、さらに、現在連邦政府が進めている社会・労働市場改革(本誌2003年6月号参照)に対しても、単なる対決姿勢で臨むことには強く反対している。これに対してペータース氏は、連邦政府の改革の「社会的」側面の後退に対する労働界でも最も厳しい批判者の一人であり、強い対決姿勢を打ち出している。また同氏は、企業の業績に応じた賃金協約の差別化には終始反対しており、使用者側に対しては、「雇用のための同盟」で同意された訓練職の増設と超過労働の削減を繰り返し要求する等、強いスローガンで現状維持を標榜し、従来の伝統路線を色濃く継承している。

このように対照的な両氏が、IGメタルのトップ・トゥーとなる指名を受け、かつ両氏は反りが合わないことでも知られているので、同労組内部では首脳部の対立で機能が麻痺することを懸念する声も上がっている。尤もフーバー氏は、執行部の全体会議で敗れたことについて、委員長になることよりもIGメタルに尽くすことを優先させたと述べており、決選投票で現副委員長のペータース氏が指名されたことは、執行部がIGメタルの団結維持を重視したという側面もある。また、ペータース氏自身、副委員長就任前は現実主義者の一面も示しており、さらに、執行部の常任委員会では改革派が多数派を占めているという現実もある。

このような中で、金属業界の使用者団体は、今回のIGメタルのトップ人事に対するコメントでは、控え目な態度を示しているが、この中でマルティン・カネギーサー金属連盟会長は、使用者側は新しいことに門戸を開くIGメタルの指導部を必要としていると述べているが、金属連盟が過去にペータース、フーバー両氏と幾つもの問題や争いを現実に即して解決してきたとも述べている。

執行部による指名を受けた後で、ペータース、フーバー両氏は、10月のハノーバーの組合大会で正式に任命されることになるが、組合員数260万人のドイツ第2の規模の産別労組であり、潤沢な資金と最も闘争力を備えた点では、文字どおり戦後ドイツの労働運動をリードしてきたIGメタルが、シュレーダー政権の社会・労働市場改革に対して、今後新指導部の下でどのように対処していくか大いに注目される。

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