時間外労働割増賃金をめぐる公正労働基準法の改正の動き
労働省は、3月27日、最低賃金および時間外労働手当の割り増しを規定する公正労働基準法の改正案を発表した。これは、管理職幹部、専門家、外勤販売員,コンピュター専門職等のホワイトカラー労働者の適用除外範囲を定めた、最低賃金、時間外労働割増賃金に関する法律で、公布以来50年の歳月を経ていたため、時代のニーズに合致した内容への改正がかねてから求められていた。
改正のポイント
時間外労働の割増賃金は、週労働時間が40時間を超えた場合に対象労働者に支払われるように規定されているが、それは従来、週給額および職種によって制限されていた。例えば、週給がわずか155ドルでも職務の性質からホワイトカラーであると認定された場合には、時間外割増賃金の対象外であった。今回の改正により、週給の最低額基準は425ドルに引き上げられるが、これにより割増賃金支払い対象が拡大するなど、弾力的措置が施されることになる。
今回の改正案のポイントは、次のとおりである。
- 間外割増賃金の支払い対象外のエグゼンプト労働者と割増賃金支払い対象である非エグゼンプト労働者とを区分するに当たり、最低週給額を職務により155ドルと250ドルという2種類に分けていたが、これを425ドルに引き上げ1本化した。
- 従来、週給155ドル~250ドルの労働者については、エグゼンプト労働者が担当するはずの職務に直接あるいは密接に関連していない職務に、就労時間の20%以上の時間を費やしていないという「20%テスト」があった。今回の改正案では、long testにおける「20%テスト」が完全に削除されている。これに代えて、客観的基準(テスト)を基本俸給額週425ドル以上の労働者対象に行う。この客観的基準は、労働者の職務の実質的な内容がエグゼンプトとみなすに足るかをテストする。例えば、管理職については他の従業員を採用、解雇する権限を持っているかどうかが問われる。また、専門職については高等教育、あるいは職歴を通して得た高度な科学的知識を必要とする職務が主たる業務になっているかが問われる。
- 企画運営職については、従来、曖昧であるとの批判が多かった「裁量と独立した判断を行っている」かどうかという基準を排し、労働者が「責任のある職務」についているかどうかをテストする。「責任のある職務」とは、(1)「かなり重要な」仕事をし、(2)高度な技能や訓練の成果を用いる職務のことである。
- 従来、労働者がセクハラ(性的嫌がらせ)、職場内暴力を起こして懲戒処分を受け、1労働日を欠勤した際に、時間給労働者のみが減給の対象であったが、平等性確保の意味から今回の改正によりフルタイムのエグゼンプト労働者の賃金を日額で減給することも提案されている。
- エグゼンプト労働者の認定に学位の有無を問わなくなることにより、ブルーカラー出身者でも職務によってはエグゼンプト労働者になることがありえる。この規定は、金融、保険、医療、エンジニアリング産業などで働く知識労働者が大きな影響を与えると考えられている。
- 高額所得労働者を対象に設けられた。年俸6万5000ドル(週給1250ドル)を超える労働者で、管理職、企画運営職、専門職のいずれか一つの職務を行う労働者は、エグゼンプトとされる。
改正の背景
前述したとおり、公正労働基準法の時間外割増賃金の支払い対象外であるエグゼンプト労働者は、第1の基準は「基本俸給基準」であり、予め定められた俸給額、あるいは固定された俸給額が週155ドルであること。第2の基準は「職務基準」であり、労働者の主たる職務が、管理、企画運営、専門、外勤販売職であることを必要とする。この「職務基準」は、2つの部分から成る。すなわち、「多くの要件からなる基準(long test)」と「少ない要件からなる基準(short test)」である。long testは基本俸給額が週155ドル~250ドルの労働者に対して適用され、short testは基本俸給額が週250ドルを超える労働者に適用される。long testは、基本俸給が比較的低い労働者をエグゼンプトとするためのテストであるため、short testよりもより多くの制約が課されている。なお、専門職とコンピュータ専門職については、long testの基本俸給額は155ドルではなく170ドルとなっている。
現行法 | long test時 | |
管理職 | 155ドル | |
企画運営職 | 155ドル | |
専門職 | 170ドル | |
short test時 | 250ドル | |
改正法案 | 標準要件の時 | 425ドル |
高額所得の時 | 1250ドル |
- 注:1年52週であることから、表中の週給の値は年俸を52で割った値である。
また、外勤販売職については基本俸給額による基準は設けられていなかった。主たる職務の要件については、1938年に施行されて以来1949年に修正されたのが最後で、それからは修正されていない。また、最低週給額による基準は、1954年以来改定されていない。エグゼンプトと認定されるべき給与レベルの規定は、1975年に更新されたままである。この法律については、1999年に米国会計検査院も、現代の職場にかなった、また将来を展望して経営者と労働者のニーズに合ったものが必要であると改正の必要性を指摘していた。労働省は2002年にステークホルダー会議を開き、労働者と経営者を代表する40以上の利益団体から、この法律の変更について意見をヒアリングしている。
労働省賃金時間担当局長は、「今回の改正により、経営者が一丸となって時間外賃金の支払いをめぐるトラブルを解決することが期待されるとともに、職務分類を含め50年の時を経て古くなった法令を、専門家のサポートを得て21世紀の職場の現実に合ったものに確実にすることにブッシュ政権は努力するつもりである」と述べている。これについては、各界からも労働者と経営者双方のニーズに合った規定策定への期待の声が聞かれているようである。
さらに同長官は、「基本俸給基準」の金額が上昇する今回の改正による効果として、女性労働者が半数以上を占めている130万人の低所得労働者の所得を増やすことが期待できるとコメントしている。
しかしその一方で、「職務基準」の変更により、64万人が時間外労働賃金支払い対象から外される可能性もあることが浮き彫りになっている。アメリカ労働総同盟/産別会議(AFL-CIO)など労働組合は、これについて「低賃金、長時間労働を増やすだけで、ブッシュ政権が進める「ファミリーフレンドリー施策」に反するものではないか」という懸念の色を示している。
この改正案は、3月31日から一般に公開され、6月30日までの90日間にわたり国民から広く意見を聴取したのち、修正が加えられることになっている。労働省は新規則を最終的に実施するのは2004年初めになると考えている。
2003年8月 アメリカの記事一覧
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