(香港特別行政区)政府、SARS対策で118億ドルの緊急救済経済措置を発表

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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2003年1月の董建華特別行政区長官の施政方針演説を受けて、3月5日にアントニー・リョン財務長官が財政演説を行い、懸案となっている財政再建に関して、増税と財政支出の削減等によって2006-07年度までに財政均衡を達成するための具体案を打ち出した。この演説は各界の支持を受け、低迷する香港経済の回復と労働市場の改善を目指す具体的歩みに向けて一歩前進することになった。だが、その矢先の3月半ばからの重症急性呼吸器症候群(SARS)の発症と蔓延によって事態は一変し、香港は世界保健機関(WHO)から渡航規制地域に指定されて、観光業、航空業、ホテル・飲食業、小売業等が大きな打撃を受けることになった。この打撃で香港経済は1998年のアジア経済危機以来の深刻な危機を迎えることになり、この緊急事態に対処するために董長官は4月23日、118億ドルの緊急救済経済措置を発表した。

以下、リョン長官の財政演説の内容を簡単に紹介し、次に董長官が発表したSARS対策としての緊急救済経済措置の内容の概略を記する。

(1)リョン財務長官の財政演説の内容

リョン長官は、香港経済は、高失業率、デフレ等の不安材料を抱えながら、中国本土の経済発展から利益を受ける立場にあり、2002年の経済成長率は予想を上回る2.3%を記録して、幾分回復の兆しも見せており、2003年は年間3%の成長を予測できるとの見解を示した。だが同長官は、懸案の政府の財政赤字の解決が早期になされないと、投資家の信頼を損ない、景気の回復の妨げにもなり、ひいては労働市場の停滞の打開につながらないとの認識を示し、財政赤字改善のために向こう4年間に200億ドルの増収と200億ドルの支出削減の具体案を打ち出した。

200億ドルの増収のうち140億ドルは、主に以下のような所得税と財産税等の増額を内容としている。

  • 標準所得税率は1%上昇し、向こう2年間16%とする。
  • 収益税は1.5%増加し、17.5%とする。
  • 財産税は1%増加し、向こう2年間16%とする。
  • 自動車登録税と空港出港税の増額もいずれ行う。

この他、増収のために、向こう5年間に1120億ドル相当の政府資産の売却も予定されている。

これに対して200億ドルの支出削減は、主に公務員給与の6%削減、社会保証関連支出の削減(本誌2003年5月号参照)、公務員総数の10%削減等で賄われることになる。

同長官は、これによって、2002年度の財政赤字は700億ドルに達するが、2003-04年度は679億ドル、2004-05年度は158億ドルに減少すると見積もっている。

さらに、雇用対策として、同長官は、2億7000万ドルを計上し、中年失業者の職業再訓練計画に5000万ドル、政府部門の暫定雇用の延長に2億ドル、大卒者の職業連結訓練に2000万ドルが充てられることになった。

(2)董長官の緊急救済経済措置の内容

リョン財務長官の財政演説の直後から蔓延したSARSによる深刻な打撃に対処する処置として、同財務長官が打ち出した増税路線にもかかわらず、董長官は所得税の返還、公共料金の減額、緊急雇用対策等を内容とする、文字どおり非常時の緊急経済措置を発表した(この発表は、SARSによる死者が100人を突破して105人となった、4月23日に行われた)。この緊急経済措置のコスト総額は118億ドルで、このうち政府支出の増加は64億ドル、政府収入の減少は53億ドルとなり、その主な内容は以下のとおりである。

  • 納税者131万人に所得税を返還し、そのコストに23億ドルが充てられる。これは緊急時の救済策の性格をもつと同時に、消費の刺激により少しでも内需を刺激して経済を活性化することを目的としている。
  • 特定産業のための銀行による低利の資金貸付けに対して保証を与え、そのコストには35億ドルを充てる。主にレストラン、映画館、観光業、小売店舗等、SARSの蔓延で大打撃を受けた業種で、使用者が銀行から貸付けを受け、従業員の賃金の支払いに充てるのを支援し、従業員の解雇を防止するのが目的である。
  • 商業上の水道料金、下水道料金、賃貸料等は減額され、関連コストは10億9000万ドルとなる。住宅局から賃貸を受ける民間企業のテナントや政府が運営する賃貸借については、30~50%の賃料の減額が与えられ、地方税、水道料金、下水道料金等は3カ月から4カ月間徴収が見送られる。SARSによる打撃に対して、民間企業のコスト削減を支援するのが目的である。
  • 打撃を受けた業種の営業許可料の減額で、その関連コストは2億8000万ドル。
  • 家庭用水道料金、下水料金の減額で、関連コストは17億7000万ドル。200万世帯が地方税徴収を4分の1免除され、水道料金、下水道料金の徴収は4カ月間見送られる。
  • 2万1500人のための職業訓練提供と暫定的雇用創出で、その関連コストは4億3000万ドル。このうち、8000~1万人の職業再訓練が、以前観光業、小売業、ケータリング部門に従事した労働者に確保され、外国語その他の技能の向上が図られる。また、食糧・環境・衛生局は、3000人を臨時に雇用し、道路の清掃に最高3カ月間従事させ、その他、労働組合や非政府組織に従業員再訓練局に登録した約2500人の家政婦を雇用させ、3カ月間高齢者の住居の掃除に従事させる計画などが含まれている。
  • SARSによる香港のイメージ・ダウンに対処するため、海外向けのPR活動を行い、その関連コストは10億ドル。
  • 医療研究と公共医療のための資金を確保し、そのコストは15億ドル。
  • 各種公共料金を6カ月間凍結する。

このようなSARS対策としての緊急救済経済措置の発表がなされたことで、リョン財務長官の増税路線による財政均衡達成を危ぶむ声があるが、これに対しては、同財務長官は、3月の財政演説で表明した財政均衡達成が可能かどうかを現時点で判断するのは時期尚早だとしている。ただ、立法会を構成する諸政党や経済界を初めとして、香港社会はこの緊急措置を一般に歓迎している。例えば香港商工会議所のイーデン・ウーン事務局長は、この緊急措置は同会議所の提言に即しており、政府は最善を尽くしたとして歓迎しており、また、職業訓練と暫定雇用のための処置については、職工会連盟(CTU)等の労組からも一般に支持する意向が表明されている。

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