概要が見えてきた退職年金改革

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年5月

政府が目指している退職年金改革の概要が見えてきた。2月26日付けの「パリジャン」紙の中で、フィヨン社会問題相は、官(37.5年)と民(40年)の年金保険料拠出期間を一本化するつもりなのかとの質問に対して、改革の最優先課題はフランス人全体の年金条件を徐々に調和させていくことだと答えた。さらに、「制度が調和されて、全員が同じ期間だけ保険料を拠出することになれば、全員のために同じゲームの規則が設定されることになる。そうなれば、制度間のあからさまな格差はもはや存在しなくなるだろう」と付け加えている。

しかし、同相は、民間の労働者に関して、賃金の高い25年間(もはや10年間ではない)に基づいて年金を計算する方式など、1993年の「バラデュール改革」に立ち戻る選択肢を排除していない。最終的な目的は、制度を資金調達可能にすることにあると言明し、改革の遅れが「負担の増大」になると説明する。改革のもうひとつの大きな柱は、フィヨン氏によると、「労働者が自らの退職を準備するためにはるかに大きな自由を得ることだ」という。第1に、現在のところ存在していない引退年齢に大きな自由が与えられることが考えられる。しかし、労働者が必要な勤続年数に達する前に引退してしまえば、十分な年金を受け取れないのは当然だ。だが、一定の勤続年数を超えれば、年金も増えていく。つまり、引退年齢を先に延ばしたい人には割り増しを提供できるというわけだ。

フィヨン氏は、きわめて若い年齢で働き始めた人も報いられるべきだとする考え方も排除しない。たしかに、「必要な勤続年数を達成したら、いつでも引退できる」のが正しいあり方だろう。しかし、潜在的に80万人が対象となるこの措置には130億ユーロのコストがかかるし、2020年になると、年金資金を調達するために、毎年追加的な500億ユーロを見つけださなければならなくなるが、これらの問題をすべて解決することは容易ではないように思われる。

いまひとつ、フィヨン社会問題相は年金貯蓄を全フランス人に提供する計画も明らかにしている。ただし、その運営を、国が行うのか、労使が行うのか、あるいは枠組みを国が定めるのかについては、まだ何も決められていない。しかし、国にとっての非課税のコストがどれほどになるのかを見きわめ、全員にアクセス可能な手段を見つけることも、やはり簡単ではない。

同相は、改革に資金的制約があることを強調しているが、CFDTなどが主張しているように、退職年金の資金調達のために新たな徴収を行う考え方にははっきりと反対だと述べている。「退職年金の資金調達の基本は労働に支えられていなければならない」というのが基本理念で、年金額のために新たな措置を動員することには否定的だ。

こうした政府の姿勢に対し、労働総同盟(CGT)、労働者の力(FO)、統一組合連盟(FSU)の各公務員組合は、まったく驚いてはいないものの、「労使当事者との協議がほとんどないまま、大臣はこのような意見を表明している」(CGT)、「公務員と民間労働者との間の公平さを完全に損なうような考え方を持っている」(FSU)と怒りを隠さない。

1995年秋、退職年金改革案に対して、激しい抗議行動が展開され、提案者のジュペ首相がついに退陣に追い込まれたが、右派にあってはこのときの悪夢がいつも心から離れることがない。したがって、各県で来週から公開討論会を予定している民衆運動連合(UMP)の議員と幹部は一層の慎重さを求められている。4月初めまで、ジュペ党首が率いるUMPは、フランス人の不安と希望に耳を傾ける責務を自らに課している。

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