「一般労使協議指令」を巡る論戦が活発化

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年5月

EUの一般労使協議指令の国内法化を巡り、労使の論戦が活発になってきた。同指令は労働者の企業参加を促す可能性があるだけに、労使関係のボランタリズムを享受してきたイギリスの使用者はとくに警戒感を強めている。

一般労使協議指令

一般協議指令の正式名称は「欧州共同体における情報提供および協議を受ける労働者の権利を改善するための一般的な枠組みを定める欧州議会および理事会の指令」。多国籍の大企業だけを対象とする「欧州労使協議会指令」とは異なり、国内だけで活動する中小企業にも適用される点で「一般的」であり、また大量解雇や企業譲渡などの特定項目だけの情報提供を定めた「大量解雇指令」や「企業譲渡指令」と異なり、特定項目に限らない情報提供を定めている点でも「一般的」である。

同指令は最終的に、2002年3月に採択され、3年後、つまり2005年3月までに、加盟国は指令の要件を満たすように国内法を整備しなければならい。指令の概要については後述。

使用者、国内法化に警戒

英国産業連盟(CBI)は、指令をそのままの形で国内法化すれば、近年ますます使用者との対決姿勢を鮮明にしている労組の影響力をさらに増大しかねないと強く懸念している。とくに使用者は、指令がドイツの経営協議会のような強力な労働者参加組織の設置へ道を開くことに警戒している。ドイツ流の経営協議会は、企業の事業計画についての情報提供や協議を受ける権利だけでなく、企業の意思決定自体に関与する権利も認めているためだ(ドイツの経営協議会については、本誌2001年5月号を参照)。

CBIはまた、指令の導入は生産性向上に寄与するはずだとの政府の見方に反論している。生産性の向上に寄与するのは、労使の集団的な協議会の設置ではなくて、むしろチーム・ミーティングや電子メールを通じた管理職と一般スタッフとの直接の協議であるとしている。

さらにCBIは、労働市場への悪影響についても指摘している。英国の労働市場は大陸欧州諸国のそれよりも規制が緩いため、使用者は比較的気軽に労働者を雇用でき、それが失業を低水準で推移させているという。むしろCBIは、ストライキを制限する方向で法改正を行うよう政府に強く求めている。現行では、投票参加者の賛成多数でストライキは実施できるが、CBIはこれを全従業員の賛成多数に変える要求している。

労組、政府は冷静

一方労組は、指令の導入を歓迎しているだけに、CBIの懸念は杞憂に過ぎないと余裕の構えだ。労働法の専門家達も同様な見方だ。それによると、指令に対する過剰反応は、イギリスの使用者に今なお見られる後ろ向きの思考を反映しており、むしろ指令は労使の信頼関係を強化するのに寄与するはずだ、としている。

政府も同様な見方をしている。指令の導入がドイツの共同決定権のような制度をもたらすことはなく、したがって、使用者の意思決定のこれまでの権限が侵害されることはないと、使用者の懸念を払拭するのに躍起だ。

もっとも、労組のなかには指令をより厳格な形で導入することを求める声もあがっている。民間最大労組であるAmicusのロジャー・ライオン書記長は、少なくとも大陸欧州諸国と同等に強力な立法を求めている。その場合には、リストラや人員削減などの際に使用者は労組や労働者と協議することを強いられることになり、とりわけ多国籍企業がイギリス人労働者を解雇するのはより困難になることが予想される。

一般労使協議指令の概要

同指令は、加盟各国内で操業する企業や事業所で働く労働者に対し、情報提供と協議に関する最低基準を設定するものである。

適用対象は、従業員数50人以上の企業または従業員数20人以上の事業所で、どちらにするかは加盟国が決定する。

労働者が情報提供と協議を受ける事項は、1.企業・事業所の活動・経済状況に関して、2.雇用状況と先行的な(anticipatory)雇用対策に関して、3.労働組織や契約関係の重大な変更に至るような決定に関して-である。

情報提供は、労働者の代表が十分な調査を行い、必要であれば協議に備えられるよう適切な時期、方法、内容をもって行われねばならない。

加盟各国は、指令不遵守の際の措置や指令違反に対する罰則を定める必要がある。

指令を国内法に転換する期限は原則3年以内であるが、小規模企業等に対する猶予期間が設けられている。100~149人規模の企業と50~99人規模の事業所は5年以内に、50~99人規模の企業と20~49人規模の事業所は6年以内に、適用されればよい。

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