年金改革の政策協議書、発表される

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年4月

アンドリュー・スミス雇用年金相は2002年12月1日、年金改革の緑書(政策協議書)、「簡略、安全、選択:就労と退職のための貯蓄」を発表した。年金危機に対処するために、国民が「より多く積み立て、より長く働く」ことを選択する制度環境を整えることが基本方針。年金税制の一本化や受給開始年齢の一律適用の廃止などを打ち出した一方、注目を集めていた、労使双方による強制的な掛金拠出については、提案に盛り込まれなかった。

年金危機

他の先進諸国と同様に英国でも少子高齢化により年金制度が危機を迎えている。政府によると、年金積立が深刻なまでに不足している労働者は300万人おり、また年金の財源不足が毎年20億ポンドも生じている。

さらに今回の緑書の予測によると、現行制度を前提とした場合、2050年までに年金受給者は500万人増えて1600万人になり、65歳以上の年金受給者の全人口に占める割合は2000年の24.4%から2050年の39.2%へと跳ね上がる。年金受給開始年齢を引き上げるか積立金を増やすかしない限り現役世代の負担が増すことになる。

こうした事態に対処するため、緑書は主に以下のような改革を打ち出した。

年金関連の税制を一本化

最も注目されている提案は、年金に関わる税制の一本化だ。現行では、年金税制は八区分され、拠出・給付の水準についてそれぞれ異なる規則を設けている。こうした複雑さが国民の年金制度の理解を妨げ、年金スキームの選択を困難にし、また過度の年金管理負担を使用者、個人、年金プロバイダーに負わせてきた。

緑書は、この弊害を解消するために、非課税となる拠出額の上限を、生涯で140万ポンド、年間で20万ポンドに一本化することを提案している。これにより積立計画が立てやすくなるほか、国民の99%以上が現行よりも非課税で拠出できる額が増えることになる。

公的年金の受給開始年齢

公的年金の受給開始年齢は現行、男性65歳、女性60歳で、女性については2010年から65歳に引き上げることがすでに決まっている。今回の緑書では、労組などからの反発を考慮して、受給開始年齢の引き上げは盛り込まれなかったが、65歳を超えても働き続けることを促すための措置を提案している。

現行では、年金受給を遅らせた場合、1年毎に.5%の割増給付が保証されているが、これを2010年から最低10%に引き上げる。さらに、割増給付が保証される年限は現在5年間であるが、この制限を廃止する。したがって、5歳まで年金受給を遅らせた場合には、給付額は2倍になることになる。

なお、公的部門の職員については、受給開始年齢を65歳に、また引き出し可能な最低年齢を55歳に、それぞれ引き上げることが提案されている。

労使双方による強制拠出制は見送られる

使用者と従業員の双方に強制的な掛金拠出を課す案を盛り込まれるかが注目されていたが、将来的に導入する可能性を示唆しつつも、今回は見送られた。

この強制拠出制度の是非については、労使の間で激しいやりとりが交わされてきた。労組によると、公的年金はもはや現在の生活水準に見合っていないうえ、企業年金についても、従来の確定給付型年金=ファイナル・サラリースキームを廃止して、確定拠出型年金を導入する企業が増えている(注1)

民間最大労組のAmicusなどは、給与の最低10%を使用者に拠出させるためのキャンペーンを実施している。

一方、英国産業連盟(CBI)は同案に猛反発しているものの、これを支持する使用者は少なくない。すべての使用者に同一の規定を適用すれば企業間の不公平が是正されるためだ。

同案については、今後検討を進めていくが、その常任委員会の委員長にCBIの前事務局長であるターナー氏が指名された。

今回の緑書について識者の間では、抜本的な改革というよりも折衷的な内容となっており、問題を先送りした感が否めないとの見方が支配的だ。

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