公共料金値上げに対する労働者の大デモとスト

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年3月

2003年1月1日、政府は財政赤字の削減のため、燃料(石油、灯油、軽油など)、電話料金、電気代といった公共料金の値上げに踏みきった。その結果、各地で労働団体、学生組織、経営者団体らが値上げ反対運動を行った。反対運動はやがて反政権デモへとエスカレートし、治安状況が非常に悪化したため、政府は急遽引き上げの一時凍結・引き上げ幅の縮小させることを決めた。

公共料金引き上げの経緯

今回政府が発表した公共料金の値上げは、石油系燃料費(平均22%アップ)、電話料金(平均15%アップ)、電気料金(6%アップで、3カ月ごとに引き上げて最終的に24%の引き上げ予定)の3つ。

料金引き上げの理由は、国際機関(IMFや世界銀行)から、膨らむ財政赤字を削減し、財政を建て直すよう求められているため。

財政を逼迫させている要因の1つに、燃料への補助金制度がある。政府は石油系燃料に高い補助金を支給し、市民に対して燃料を安価で購入できるようにしていた。しかし、その制度が財政に大きな負担となっていた。

表:2003年に引上げられた石油製品の価格表 (単位:ルピア、%)
種類 旧価格 新価格1
(1月1日発表)
値上げ額 値上げ率 新価格2
(1月21日発表)
普通ガソリン 1,750 1,810 60 3.4 1,810
自動車用軽油 1,510 1,890 380 25.3 1.650
ディーゼル油 1,510 1,860 350 23.2 1,650
灯油
a.家庭用 700 700 0 0 700
b.産業用 1,530 1,970 440 28.8 1,800
重油 1,120 1,560 410 39.3 1,560

出所:インドネシア・ウォッチング2003年1月20日号(元データ:コンパス紙2003年1月2日、テンポ2003年1月12日)

労働者、学生、経営者らの大規模デモ

市民の暮らしに大きく影響を与えるこれらの引き上げに対して、全国各地の学生や労働団体が抗議活動を展開。1月6日にはチレボンや西ジャワなどにおいて公共バスのドライバーの抗議活動が、またバリやバンドン、メダンなどでは労働者と学生組織のデモが行われた。

1月9日には各地で労働団体による大規模なデモが繰り広げられ、首都ジャカルタでは、大統領宮殿前で数千人規模のデモが行われた。参加した労働団体は、全インドネシア労働組合連合改革派(FSPSI Reformasi)や、インドネシア福祉労働者組合(SBSI)、左翼的な全インドネシア労働者統一前線(FNPBI)、右翼的なインドネシア・ムスリム労働者連合(PPMI)などである。

また、今回の抗議活動では、インドネシア経営者協会(Apindo)や商工会議所(Kadin)といった経営者団体や大学の教員なども参加し、労使ともに抗議活動を行うという異例の光景が見られた。

このような動きに対し、メガワティ大統領は、この引き上げが長期的視点から見て、経済の建て直しに必要不可欠な政策であることを訴えた。

引き上げ後の各分野への予想される影響

1.市民生活への影響

この引き上げの影響を最も受けるのは低・中所得層を中心にした市民であると予想されるが、政府はこの引き上げと同時に、低所得者を対象にした減税(所得税、付加価値税、23品目に対する奢侈税など)を行ったため、それらの所得層へのマイナスの影響はないとコメントしている。

特に所得税の減税は、日雇い労働者を対象とし、従来は、州に関わらず日当2万4000ルピア以上を課税対象としていたが、今回の改訂から、日当が月額最賃の10%以下の場合、課税対象にはならないことが決定した。

電話料金に関しては、電話線を引いている家庭は全世帯の5%程度のため、影響を受けるのは富裕層のみであると政府関係者は説明している。

燃料費の値上げに関しても、燃料費引き上げに伴う公共交通機関の運賃値上げが予想されるが、市民の所有するモーターバイクの燃料に関しては、モーターバイクを所有する中所得者層のみが影響を受けるであろうと予想している。

しかし、市民の懸念事項は、引き上げられた料金が果たして本当にサービスの向上や、そこで働く従業員の福利厚生のために使われるかどうかという点にある。つまり、長年の癒着や汚職、賄賂に流れていくのではないかとの懸念が大きい。

2.政治への影響

当初行われた抗議活動は、公共料金値上げに対するものであったが、次第にメガワティ政権への不満に変化してきた。高い失業率、貧困といった社会問題が解決しないまま、公共料金の値上げを行ったということで、市民の怒りが爆発した。そのため、今後の政局の不安定化も懸念されている。

また、2004年には総選挙が予定されているが、メガワティ政権の人気は、今まで特に大きな政治・経済的成果が挙げられなかったという点だけでなく、この事件によっても急激に低下した可能性がある。そのため、次期の続投は難しいのではないかとの声も挙がっている。

2003年の最賃値上げ、生活費の上昇で相殺

公共料金が引き上げられたのと同時に、2003年1月1日からジャカルタ特別州を中心に5.3~28.79%の月額最低賃金が引き上げられた(詳細は本誌2003年1月号を参照)。しかし、州ごとに推定されている最小限の生活費用を上回っていない州も多く、上記の燃料値上げに便乗した生活必需品価格の上昇もあり、最賃の引き上げは不十分であるという意見は多い。

今回引き上げを決めた23の州・県の中で、最小限の生活費を満たしている地域は、北スマトラ、南スマトラ、ジョグジャカルタ、南カリマンタンの4ヶ所のみとなっている。

燃料費の値上げはその他全ての生活必需品の価格を引き上げる傾向があり、すでにインスタント麺(40%アップ)、食用油(6%アップ)、野菜(10~70%アップ)などの市場価格が上昇している。特に野菜は、燃料値上げの影響だけではなく、2002年の長雨のため不作で、品種によっては、7割以上も値段が上がっているものもある。

例えば、ジャカルタ特別州の最低賃金の場合、2003年に最低賃金が6.8%引き上げられ63万1554ルピアとなったが、同州の行政機関が2002年10月の物価から算定した最低限の生活費は74万6749ルピア、また、インドネシア労働者統一前線(FNPBI)の調査では113万ルピアが推定されており、最低賃金の不十分さが明らかとなっている。

大規模なデモにより、料金値上げ延期に

以上のような、料金値上げに対する各分野からの激しい反対運動から、政府は1月15日夜に行われた緊急国会協議にて、電話料金値上げの延期を決定した。電話料金は運輸相通達のみで規定されており、大統領令で決められる燃料・電気料金よりも変更が容易なためとの判断からこのような決断となった。

この決定後、多少抗議活動が沈静化したものの、活動の内容がメガワティ政権打倒といった形に変化しただけで、労働者らや学生組織のデモは続いたため、最終的に政府は21日、燃料費の引き上げ幅を小さくする案を発表した(表の新価格2を参照)。

この発表後も、学生組織や労働団体は、メガワティ政権の根本的な改革が行われない限り抗議活動は続行すると発表し、公共料金の値上げを引き起こすきっかけとなった国際通貨基金(IMF)や世界銀行、インドネシア支援国会議(CGI)を非難する動きも見られた。

一方、1月21日にバリ島で開催されたインドネシア支援国会議(CGI)において、IMFは、引き上げを取り消したことについて触れ、市民も企業も料金引き上げに対して準備する必要があるとのコメントをしている。

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