インターナショナル・スチール、ベスレヘム・スチール買収を提案

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年3月

鉄鋼産業再編の動きが進んでいる。2003年1月上旬、インターナショナル・スチール社がベスレヘム・スチール社に、また、USスチール社がナショナル・スチール社に買収を提案した。今後、労組を含めた交渉が行われるが、ベスレヘム・スチール社のホワイトカラー、ブルーカラー労働者計1万2000人のうち、3割~4割が削減される可能性があり、労働者、退職者に対する各種給付も大幅に削減されるものと見られる。ナショナル・スチール社についても同様の条件が全米鉄鋼労組(USWA)に提示される見込みである。これらの買収が実現するには、破産審査裁判所に認可される必要がある。

米鉄鋼業界では、過去5年間に連邦破産法11章(会社更生法に相当)を適用申請した企業が約30社ある。その多くは、労働者および退職者に対する多額の医療、年金給付債務を負っていた。鉄鋼業界の多くの米企業は、輸入品に対する価格競争力を失い、多くが海外に生産拠点を移した。そのため、同業界で各種の給付を受給する、退職者と被扶養者50万人に比べ、現役の労働者数が極端に少なく、鉄鋼各社は、労働協約で定められた賃金や各種給付を支払うことができなくなっている。ただし、医療給付、年金給付などの負担を重く感じているのは鉄鋼業界に限らない。業績を軒並み悪化させている航空業界では、やはり連邦破産法11章を適用申請して労使が労働コスト削減の方法について交渉している会社がある。鉄鋼業界における労働コスト削減の手法は、他の業界からも注目されている。

鉄鋼各社によれば、鉄鋼企業による買収が可能になったのは、ブッシュ大統領が2002年3月に発効させた鉄鋼輸入関税で、鉄鋼産業が保護されたためである。この関税により、鉄鋼各社は高い価格で製品を販売できるようになり、比較的競争力が高い企業が、他社を買収できるようになった。

LTV社の倒産と元従業員の再雇用

鉄鋼業界では、USWAが雇用の一部を守るため、従来の協約の見直しに応じる意思を示し、年金および各種給付引き下げに応じようとしているため、経営破綻した企業の買い手が現れ始めている。こうした鉄鋼業界再編の動きは、2001年12月にLTV社が連邦破産法第7章による破産手続き(注:債務者の財産財団を破産管財人が売却の目的で保管し、その破産財団を管理・換価して債権者にこれを配当する手続など)を申請して以来始まっており、同社では何万人もの労働者と退職者が所得と給付を失っている。この2,3カ月後にウィルバー・ロス氏がインターナショナル・スチール・グループを設立し、LTV社の鉄鋼関連資産を購入して生産を再開させた。LTV社ではUSWAに加入していた従業員のうち、約6割が再雇用された。しかし第7章による手続を行っている会社は、継続的で安定した製品納入を望む自動車会社などと契約を結ぶことが容易でなく、LTV社は、それまでの顧客の一部を失った。この経験から、ロス氏は、管財人の任命が必要でない会社更生手続である破産法第11章で更生中の企業を買収することを希望している。

ウィルバー・ロス氏は、2002年12月にLTV社従業員(USWA)と暫定協約を締結した。ロス氏は、年金、医療給付、保険などを提供しなかったが、退職者が医療費支払いに困った時に利用できる基金を創設することに合意した。2002年8月に、議会は、外国との競争により職を失った労働者に対し、連邦政府が一時的な医療給付等の給付、職業訓練を提供する法案を成立させたが(本誌2002年10月号参照)、ロス氏は、USWAに対し、LTV社従業員は、この制度を活用して医療費援助を受ける資格があると指摘している。

ベスレヘム、ナショナルの両従業員にも同様の条件

2002年12月にベスレヘム・スチール社は、年金支払いをできないと宣言し、準公的機関である年金給付保証会社(PBGC)が同社の年金給付債務を引き継ぐことになった。PBGCによれば、同社の年金プランには、給付を受給している6万7000人以上の退職者、退職年齢から年金を受給する予定の1万5000以上の元従業員、そして約1万3000人の現役労働者が含まれており、PBGC管理下にはいるため、給付額は減額される。一方、USWAも、会社更生手続き中のベスレヘム・スチール社経営陣と、協約再交渉する意思を示した。ウィルバー・ロス氏は、LTV社の労働者との合意とほぼ同じ内容の条件を、ベスレヘム社のUSWAに提示しようとしている。

USWA会長のレオ・ジェラード氏は、雇用を確保するために過去に約束された給付の一部を放棄するより他にないと述べている。しかし、買収を支持するためには、何千人もの労働者が受け取る早期退職勧奨の金額が十分であることが前提となると語っている。

ナショナル・スチール社買収を提案しているUSスチール社の経営陣も、ナショナル・スチール社のUSWAと同様な合意に達することができると確信している。ナショナル・スチール社の退職者も、年金給付支払い義務を同社から引き継いだPBGCから、以前よりも低い給付を受け取っている。現在、PBGCからの年金受給者の半分以上が鉄鋼産業で働いていた従業員である。

2003年1月23日、AKスチール社が、USスチール社よりも高い金額を提示して、ナショナル・スチール社買収を提案した。USWAは、労使関係が良好でないAKスチール社による買収に難色を示している。

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