イタリアにおける労働市場改革

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年2月

10月30日、下院により労働市場に関する法案3193号(イタリアの労働市場に関する白書の内容を受けたもの)が承認された。法案は改革原案と異なり、経済的助成措置、社会的緩衝措置および労働者憲章法18条(解雇に関する規定)の適用範囲の見直しは削除された。政府は、本法案で示された指針を実現するため、上院での可決後すぐに、いくつかの委任立法を提示し、来春にはこれらを施行する予定である。

仲介、派遣労働およびスタッフリース

法案は、1960年10月23日法律1369号(注1)を廃止し、新たな規制を定めている。新規制は、一律的な禁止ではなく、厳格かつ効果的な認可制度を基本としている。

まず、これまで禁止されてきたいわゆる「スタッフリース」を導入することで、派遣労働の利用が拡張される。この「スタッフリース」により、企業は、技術的、生産的および組織的な特別な理由があることを示すことで、有期契約だけでなく、期間の定めのない契約でも、労働力を「借りる」ことができるようになる。さらに、請負と労働者供給との区別の基準の明確化、ならびに、技術的、生産的および組織的な理由がないか、労働者の基本権を侵害するような違法な労働者供給の場合等についても規定する。

また、労働者の権利を保護するため、法案は、労働者供給における派遣元企業と派遣先企業の連帯制度、派遣元企業の事業者としての性質、供給の対象となる労働者と派遣先企業の労働者との間の平等取扱いを定めている。

企業移転

同じく法案の1条は、企業の部門の移転に関する新規定を定めている。いわゆる外部委託を可能にするためには、その移転の時点で、委託される事業部門に、1つの経済主体と評価しうる程度の生産能力が備わっていることと、従前の経済活動と基本的に同じ活動を遂行するための手段を有する組織体であることが必要である。要するに、委託される事業部門は、実際上の機能的独立性を備えていなければならないのである。この要件は、委託される事業部門の労働者を保護する目的で規定された。

さらに、企業部門の委託が請負契約に関係する場合について、注文主と請負人との「特別連帯制度」が定められた。移転は、一般に、名義の変動を伴う。この場合、委託される事業部門の労働者は、委託先の使用者の下に移されるが、その権利はすべて維持される。

見習労働契約、訓練契約および実習

法案2条は、職業訓練や実習に関する契約類型を見直している。まず、見習労働契約は、学校制度と職業訓練制度との連関を確保した互換的な職業訓練制度として評価されている。実際、この問題は、「就業能力のための教育」のスローガンの下、雇用の発展のための基本事項として理解されており、今回の改革の要点である。訓練労働契約もまた、労働者の職業能力を企業側の具体的な要請に適合させることにより、労働者を労働市場に組み入れる役割を担うものとして再定義される。労働者および企業の代表からなる組織が、訓練活動を支援することになる。

パートタイム労働

法案3条は、パートタイム労働を普及させ、とくに、女性、若年者および一定の非就労期間後に労働市場への復帰を図る労働者のために、より弾力的な規定を導入している。実際、法案報告者は、いくつかのヨーロッパ諸国で、パートタイム契約の普及により就業率の増加がみられたことを挙げ、EU法上の義務に即して、パートタイム労働を奨励することを強調している。さらに、とくにタテ割パートタイム労働(週の数日だけ働き、1日の労働時間が通常のもの)および混合型パートタイム労働(タテ割パートと後述のヨコ割パートの混合形態)の弾力性を高め、ヨコ割パートタイム労働(週単位では通常労働日数働くが、1日の労働時間が通常よりも短いもの)における超過労働の利用をより容易にするために、規定を定めている。労働時間は、労働者の同意と報酬の増額に左右される。使用者は、弾力的な労務の必要性を正当化するような技術的、組織的または生産的な理由を契約の中で明記する必要があるが、これ以外に契約の自治を制限するような義務はない。さらに、パートタイム労働の利用が農業分野にも拡大される。

このように規制が緩和されたのは、パートタイム労働に関するイタリアの現行法が、EUレベルおよびEU指令に照らして、労使の意思を十分に尊重していないと考えられたためである。実際、EU指令は、パートタイム労働の十分な利用を妨げている弊害を除去するよう、加盟国に促しているのに対し、イタリアで公布された法規は、むしろパートタイム労働を制限する傾向があった。

このほか政府が改正しようとしている点として、使用者と締結した契約の種類について労働者が行う「申請」がある。この申請も、当事者の契約の自由を甚だしく制限するためである。

新たな非典型労働契約

就業率を増加させると同時に合理化を進めるため、既存の契約類型の機能を明確化し、新たな契約類型を導入することも、政府に委任されている。4条は、呼び出し労働、派遣労働、連携的継続的協働労働、偶発労働、補助労働、ジョブ・シェアリングについて定めている。

(1) 呼び出し労働

いわゆる「オン・コール・ジョブ」は、「間歇労働」とも呼ばれる。労働者は、使用者の呼び出しを待ち、その求めに応じて労務に従事する。したがって、労務は非継続的に遂行され、労働者は、実際の労働時間に応じた報酬のほかに、使用者によって支給される「待機手当」を受ける。労働者が使用者の呼び出しに応じる義務がない場合には、待機手当を受ける権利はない。政府がこの新たな契約類型を導入しようとするのは、詐欺的に用いられることの多い類似の形態を阻止するためである。

(2) 派遣労働

派遣労働に関しては、派遣企業を介在させる派遣労働を農業分野に拡張するのみである。

(3) 連携的かつ継続的協働労働

連携的かつ継続的協働労働の中に、新たに「プロジェクト労働」を含める。したがって、プロジェクト労働は、独立労働ということになる。契約締結は、書面によってなされなければならない。労働者は、従属的な拘束を受けず、主としてまたは専ら自ら労務を遂行することで、労働プロジェクト・計画または労働計画の遂行義務を安定的に負い、報酬支給の実施方法、期間、基準および時期を、注文主と直接協定する。報酬は、類似の労務について通常支給される報酬も考慮したうえで、遂行される労働の質および量に応じて支給されることになろう。法律では、週休または年休ならびに疾病、妊娠および災害の場合の保障といった協働労働者のもつ基本権も提示されよう。プロジェクト労働関係は、プロジェクトが完了した時点で終了する。

この規制の見直しにより、従属労働保護のための法規を回避するような連携的かつ継続的協働労働現象を阻止し、こうした協働労働を従属労働領域に引き戻すことが期待される。要するに、政府は、経済の第3次産業化のために近年表面化してきた傾向(すなわち、プロジェクト労働)を法律上承認したわけである。組織上の独立性を有するが、労務給付においては連携的継続的性質をもつことを捉えて、適切な定義付けを行うことは、法的措置の「厳格化」を意味するわけではない。むしろ、こうした契約形態の類型化は、当事者の契約の自治がうまく機能するよう保障するためのものである。

(4) 偶発労働および補助労働

偶発的性質をもつ労務給付は、従来から認められている。4条では、同じ注文主の下での契約期間が年30日以下で、報酬の総計が5000ユーロ以下の場合が、こうした偶発労働に当たると定められている。

同条は、長期失業者など社会的疎外を受ける可能性のある主体、労働市場にいまだ参入していない主体または労働市場からまさに退こうとしている主体(とくに、若年者、主婦、年金受給者など、不定期および短期の就業者)により、家族や団体のために行われた補助労働(とくに社会扶助的なもの)の試験的導入についても定めている。子供や老人の世話をする家族の必要性に対処し、また、労働関係を簡素化することで、他者を扶助する場合においてこうした労働類型の利用を奨励することが目的である。

(5) ジョブ・シェアリング

イタリアの法制度では、いまだ、使用者と協定した2人以上の人が「連帯して」単一の労働義務を負うという労働の分担の原則が導入されていない。「ジョブ・シェアリング」契約では、どのように労務を分担し、またフルタイム労働をどのように配分するかについて、当事者が自由に決定しうる。法案報告者によれば、こうした労働類型も、とくに労働者間の連帯の論理に関わるものであり、私生活および職業生活の質を向上させることができるとされている。

協同組合の組合員たる労働者に関する新規制

4条の2は、2001年4月3日法律142号で規定されている協同組合員の組合員たる労働者に関する規制を変更している。組合員たる労働者に関しては、従属労働関係よりも組合関係の方が強く表れている。また、労働者憲章法に定められた権利は、代表的な労働組合との労働協約を通じて、組合員たる労働者の機能との齟齬がないように修正されている。今回の変更は、組合員と労働者という二重の性質を明確にしたうえで、この2つの関係のうち組合関係が優先することを確認し、協同組合活動を遂行しようとする者の権利を保障するものと考えられている。

協同組合連盟は、この新規定について、時宜を得た修正と賛同を表明している。ただし、この規定のもつ長所について明らかにするために討論を要求している。協同組合活動の進展という基本的な目的ならびに組合員たる労働者の役割および保護との一貫性が確保されなければならないというのがその主張である。

現行法が修正されれば、裁判管轄に関する基準が簡素化され、組合員の脱退や除名に関する争議は、通常民事裁判官に属することになる。また、企業が危機に陥った場合には、就業水準確保を目的とする計画書を決議するために会議が招集され、組合員たる労働者は、自らの資産状況に応じて、問題の解決のために拠出(金銭拠出を含む)を行うことができるようになる。さらに、不利な状況に置かれた人々を労働市場へ組み入れるために活動している社会協同組合の特殊性を考慮して、全国レベルでの団体交渉には修正が施され、代表的な労働組合が地域レベルでの協定を締結できることになろう。

認証

労働契約の法的性質に関する紛争回避を目的として、契約類型を証明する特別な手続きが5条に定められている。この手続きに従って認証を経た契約には、完全な法的効力が付与されることになる。さらに、この認証を経た場合には、契約の評価に関する齟齬または当事者が実際に実現した契約プランおよび認証過程で当事者が協定した契約プランの不一致のとき以外は、裁判所に訴えることができない。ただし、これらの新制度は、試験的なものであり、任意の性質をもつ。労働者と使用者がより適切な契約形態を選択できるよう支援する役割は、労働組合の代表と企業の代表による組織がもつ。

雇用および労働市場に関する法案を下院が承認したことは、イタリア協定の実現にとって重要な一歩である。労働市場の透明性および有効性を確保するための制度を実現するための前提は整った。最終的な承認を得るため、法案は再び上院に送られるが、これは実際上形式的な手続きである。

今回の法案における改正点や新制度は、ヨーロッパでも最低の就業率(とくに、55歳を超えた人々、女性、若年者および長期失業者)といわれるイタリアの労働市場の現状を反映したものである。改革支持者は、この状況が労働法の硬直性に由来するものであり、弾力性を高めるための措置を法律で定めることが必要と主張している。これを受けて、今回の法案で導入された措置は、労働市場の機能を向上させ、リスクを負った人々の労働市場への参加を促進することを主たる目的としているのである。

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