5賢人会議、2003年の失業者数417万人を予測

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年2月

連邦大統領が任命する国内の代表的経済学者で構成される5賢人会議は、毎年ドイツ経済全体の発展を評価する鑑定意見を発表するが、2002年11月発表の今年の鑑定では、第2次シュレーダー政権が経済・財政政策で誤った道を踏み出しているとして、異例の厳しい評価が加えられるとともに、2003年の失業者数も417万人と予測され、労働市場の改善についても消極的な評価がなされた。

国内総生産に対する財政赤字の割合については、5賢人会議は、2002年が3.7%、2003年も3.3%と見積もり、いずれも欧州連合(EU)の財政安定協定で定められた3%枠を超えると予測した。これは6大経済研究所の、2002年3.2%、2003年1.9%との予測を下回り、特に同研究所の2003年についての楽観的な予測と異なっている(本誌2003年1月号参照)。

経済成長については、同会議は、2002年0.2%、2003年1%と予測しており、ここでも6大研究所の予測、2002年0.4%、2003年1.4%を下回っている。

労働市場については、同会議は、2002年と2003年のそれぞれについて、ドイツ全土の失業者数は406万人、417万人、失業率は9.8%、10%と予測しており、むしろ悪化すると予測している。

この労働市場に関する5賢人会議の予測は、労働市場改革に関するハルツ委員会答申とその実施法案を不十分とする評価が根底にあり、失業者数を200万人減少させる計画は達成され得ないとしている。そしてハルツ構想の人的サービス機関(PSA)による失業者の派遣、私会社、ミニ・ジョブ等について(I参照)、国家財政を圧迫するコスト等を理由に批判している。

このような厳しい異例の評価の中で、同会議は、将来あるべき労働市場改革、社会保障改革、財政政策に関して20項目の提言を行っているが、このうち労働市場改革については、必要とされる要因は大きく見て以下の3つの内容で構成されている。

  1. 労働力の需要が強化されねばならず、そのためには税と社会保険料の軽減によって労働のコストを減少させねばならない。そのうえで、労使の賃金協約締結に際しては、労働生産性の上昇率を賃上げにそのまま反映させないように配慮されねばならない。
  2. 失業手当支給期間は、現在の最高32カ月から12カ月に短縮されねばならない。さらに、労働能力のある者に対する社会扶助は、これらの者が低賃金の職種に就く意欲を高めるために、減額されねばならない。
  3. 企業は従来よりも産業別労働協約(賃金協約)からの逸脱を認められるべきである。なかんずく、企業と従業員を代表する経営協議会が締結する事業所協定の内容が、賃金・労働時間について労使の賃金協約の内容を下回ってはならないと定める有利原則(Gunstigkeitsprinzip)は、雇用の保証(救済)を条件として事業所協定が賃金協約を下回っても適法であるというように変更されねばならない。

このような5賢人会議の政府の政策批判にまで立ち入った改革を提言する鑑定意見に対して、フント使用者連盟(BDA)会長は11月19日のドイツ使用者大会等で賛成の意を表明しているが、クレーメント経済労働相(SPD)は、社会福祉的に見て十分考慮されていないと退けている。しかしシュレーダー政権の支持率が急落している時に(I参照)、5賢人会議の改革提言がどのような意味をもつか、今後の推移が注目される。

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