新たに経済労働省設置
―第二次シュレーダー政権成立

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年1月

9月22日の連邦議会選挙で僅差の勝利を得た社会民主党(SPD)と90年連合・緑の党は、その後、新政権のための連立協定締結の交渉を進めていたが、10月16日に閣僚人事の決定とともに連立協定も締結するに至り、第2次シューダー政権が発足し、大量失業との戦い等多くの難題を抱えながら、新たに船出することになった。

(1) 第2次シュレーダー内閣の陣容

今回の組閣で、省庁再編による閣僚人事の目玉となったのは、経済省と労働社会省の労働関連部門を統合して新たに経済労働省(スーパー省)を設置しシュレーダー首相が、ドイツ最大の人口を誇り、ルール工業地帯を抱えたドイツ産業の中心であるノルトライン・ウェストファーレン州(州都デュッセルドルフ)の首相を務めるヴォルフガンク・クレーメント氏(SPD)を抜擢したことである。先のハルツ委員会答申(本誌2002年11月号参照)にもとずく労働市場改革の実施と経済再生にシュレーダー首相が最優先で取り組む決意の現れと見られる。また、失業率が西独地域の2倍で、産業のインフラ整備も遅れ、低迷を続ける東独地域の経済再建は、第2次シュレーダー政権にとって重要課題であるが、これを担当する運輸・建設・旧東独再建相に、旧東独に当たるプロイセン出身で、6月までブランデンブルグ州の首相を務めて、一旦は引退を表明していたSPDの重鎮マンフレッド・シュトルベ氏を抜擢した。その他、フィッシャー外相、アイヘル財務省、シリー内相、シュトルック国防相等の主要閣僚の多くは留任となり、総選挙で予想以上に検討した緑の党の閣僚ポストは、環境省の所管に新エネルギー開発を加えるだけで、従来の3ポストに止まった。また、第1次シュレーダー政権で年金改革等で中心的役割を果たしたリースター前労相は、閣僚名簿から外れることになった(注1)

(2) クレーメント経済労働大臣の経歴、所管事務、各界の反応

今後の労働市場改革の中心となるクレーメント氏は、1940年ボッフム生まれで、大学では法学を治め、政治的人脈では、前ノルトライン・ウェストファーレン州首相で、現在連邦大統領のヨハネル・ラウ氏に近い人物である。同士は、同大統領の1985年の州首相再選に選挙参謀として大きな役割を果たし、その後、1995年から1998年まで、ラウ首相のもとで州経済技術交通相を努め、通信・メディアにも及ぶ広範な所管事務を担当し、同州経済構造改革を自らの旗印としてエネルギッシュに活動してきた。また、州政府の連立パートナーの緑の党とも折り合いを付け、1998年からラウ氏の跡を継いで州首相を務めていた。中央政治の経験はないが、同士はSPDの有力政治家として連邦首相候補として取り沙汰されたこともあり、同氏のスーパー大臣への抜擢は、従来の支持基盤でありながら、経済界ともパイプをもつ同氏の構造改革を含む大胆な経済政策の実行に期待するものと見られている。

スーパー大臣としてのクーメント氏の所管事務は広範に及ぶが、経済関係では、競争政策、地域助成、通信・郵便、中産階級支援、対外経済政策、エネルギー政策、労働関係では、社会扶助、年金政策、労働市場政策に及ぶ。この中でも、労働市場改革案としてのハルツ委員会答申の実施、なかんずく、派遣労働法の規制緩和と失業関連給付の統合に対する労働の抵抗への対処緊縮財政との関係での補助金削減等が、就任早々着目を集めている。

クレーメント氏の経済労働相就任について、経済界は、権限の集中で経済政策と労働市場政策の一貫性が期待できると概ね歓迎の意を表明しているが、労働側から、従来労組が労働社会省に対してもっていた労働市場・社会政策における影響力が新たな経済社会省の設置で後退しないかとの声が上がっており、また、経済政策が労働政策よりも優先され、労働者の権利縮小を招く恐れがあると懸念する声も上がっている。

(3) 緑の党との連立協定の骨子

このようなスーパー大臣の抜擢とともに、2週間の協議を経て、緑の党とのあらたな連立協定も成立し、外交・安全保障、欧州統合等と並び、経済・労働関係では次のような内容が合意されている。

  • 労働市場政策:ハルツ委員会答申を2003年3月1日から施行することが合意され、これに関連して、個人世帯のサービスに関する低所得労働(ミニ・ジョブ)の上限は500ユーロとされるが、他の低所得労働の上限は325ユーロのままとされた。また長期失業者の失業給付IIの受給についても合意されたが、これは夫婦の一方が就業していれば減額されることになった。
  • 経済政策:企業支援の強化、規制の緩和と企業のための投資環境の改善、中産階級の支援のほか、世代交代に寄与するために、徒弟の手工業事業所の継承が、マイスターの雇用を条件に、認可される。
  • 財政政策:142億ユーロの連邦の歳入欠陥を補うために来年度26億ユーロの新規債務負担、同時に116億ユーロの歳出削減(このうち74億ユーロは、連邦雇用庁補助金、失業給付、年金給付の削減に関連)、子供のいない家庭への持家手当の削除、株式・不動産譲渡益の課税等の増税措置。
  • 年金政策:年金保険料の料率は2003年に19.1%から19.3%に引き上げる。西独地域では総所得5100ユーロまで保険料支払い義務があり、東独地域では4275ユーロまでとする(従来は西独地域で4500ユーロ、東独地域で3750ユーロ)。これにより、西独地域では、高賃金の被雇用者と使用者の年金金庫への支払いは、それぞれ月額62.40ユーロ増加する。

以上のような連立協定の調印と組閣を経て、シュレーダー首相は10月29日施政方針演説を行い、厳しい経済状況に鑑みて国民に財政的な負担についての理解を訴えかけ、最重要課題として労働市場改革を挙げ、そのためのハルツ委員会答申の実施を表明した。クレーメント・スーパー大臣の抜擢を目玉とする第2次シュレーダ政権の改革がいかに進むか、今後の展開が注目される。

首相 ゲルハルト・シュレーダー(58、SPD、留任)
内相 オットー・シリ-(70、SPD、留任)
運輸・建設・東独地域再建相 マンフレット・シュトルペ(66、SPD、新任)
経済労働相 ヴォルフガンク・クレーメント(62、SPD、新任)
財務省 ハンス・アイヘル(60、SPD、留任)
経済協力・開発相 ハイデマリー・ヴィツォレック・ツォイル(59、SPD、留任、女性)
国防相 ペーター・シュトルック(59、SPD、留任)
保険・社会相 ウラ・シュミット(53、SPD、留任、女性)
教育・研究相 エーデルガルト・ブルマーン(51、SPD、留任、女性)
法相 ブリギッテ・ツュプリース(48、SPD、新任、女性)
環境相 ユルゲン・トリッティン(48、緑の党、留任)
文化相 クリスティーナ・ヴァイス(46歳、緑の党、留任、女性)
消費者保護・食料・農業相 レナ-テ・キュナスト(46歳、緑の党、留任、女性)

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