上海汽車工業(集団)公司の労使関係
中国の自動車市場は急伸しており、乗用自動車の販売台数は、2001年には、70万台、2002年上半期には、47万台に達している。また、最近の民間のシンクタンクの経済予想の中には、UFJ総合研究所のように、2015年には中国の自動車販売台数が、日本を上回る836万台に達し、市場規模で世界第2位になるという予想を発表しているところも出ている(注1)。
こうした中、本記事では、合資・合弁企業を積極的に展開している上海汽車工業(集団)公司(上海汽車)の労使関係を紹介する(注2)。
第一汽車 | 吉林省長春市 | 独フォルクスワーゲン、トヨタ |
東風汽車 | 湖北省+堰市など | 日産、ホンダ |
上海汽車 | 上海市 | 独フォルクスワーゲン、GM、イスズ(富士重工業が検討中) |
概略
上海汽車は、普通車以外に、バス、トラック、オートバイ、トラクター、各種自動車部品を製造している総合的自動車製造販売会社である。年間生産能力は、自動車が40万台、トラクターが1万8000台である。グループ企業の中に9つの国有企業を有し、合計6万人の労働者を雇用する。2001年の売上額は、980億元で、乗用車の販売台数は、30万台に達し、国内市場占有率は、43%にまで伸ばした。総資産額は、783.4億元、普通乗用車の延べ生産台数は130万台に達する。
上海汽車が、本格的に発展し始めたのは、改革開放政策以後である。トラクターの製造販売事業から手始めに、計画経済体制から市場経済体制への移行を着手した。1978年11月9日、鄧小平が上海汽車を訪れ、普通乗用車や大型自動車製造において外国企業と合資・合弁事業に着手することを積極的に支持した。この直後に、欧州の自動車会社最大手の独フォルクスワーゲン(VW)社との合弁事業計画を発表した。1983年4月1日、最初の合弁事業生産車両『サンタナ』が完成し、市場に売りに出された。
上海汽車は、中国の三大自動車会社の中でも、積極的に外国企業との合弁・合資事業を進めてきた企業で、ドイツのボッシュ社、米国のGM社、フォード社、ITT社、日本のイスズ自動車、小糸製作所、英国のGKN社、フランスのボレオ社などの企業と合計57の合資・合弁企業を設立している。
四大プロジェクトと労務管理
上海汽車の経営方針は、「SAIC」という経営スローガンに良く現れている。SAICというのは、Satisfaction from customer, Advantage through innovation, Internationalization in operating, Concentration on peopleの意味である。
この経営方針を具体化したものが、顧客満足プロジェクト、全面創造プロジェクト、グローバル経営プロジェクト、人材管理プロジェクトの四大プロジェクトである。この経営方針の下、人材育成と労務管理を実践してきた。
人材管理プロジェクト
上海汽車は、人材管理が上海汽車を持続的に発展させる上で基礎であり、国内外の競争力を向上させる原動力であることを認識している。
優秀な人材の流出を防止するために、上海汽車は、経営方針の中に、「真摯な感情で人材を慰留し、優れた事業人材を惹きつけ、大規模事業で人材を鍛え、有効的な研修方法で人材を養成し、合理的な制度で労働意欲を刺激・奨励する」という内容を組み入れ、優秀な人材を養成し、高品質の製品を製造することを目標にしている。
人事制度の刷新も企業の現代化に置いて重要と見られている。上海汽車は、労働意欲を向上させ、優秀な技術者を養成し、企業内に引き止める人事制度の創設を目指し試行錯誤を続けている。
人材養成システムの特徴
上海汽車は、海外との合弁事業の中で、優れた自動車を生産するには、従来のような技術者のみを研修させるだけでは不十分と認識し、労働者を全員研修させるよう研修制度を刷新した。年間延べ20万人の従業員研修を実施しており、第9次五カ年計画期の従業員研修費用は、2億5000万元に達した。
前述の「引進来」の方針の下、積極的に海外に技術者を派遣した。また、ヘッドハンティングと大卒採用により、年間600名の各種技術者を採用している。
実際の研修事業は、下部組織の上海汽車工業研修センター、上海汽車工業(集団)総公司職業大学、中国共産党上海汽車工業(集団)総公司党校が実施してきた。
しかし、近年必要とされる技術の高度化と多様化に対処するため、国内外の大学と技術者研修協力関係を結び、より専門性の高い研修制度の樹立を図っている。
現在の一般研修の主な内容は、(1)経営管理、(2)生産・物流管理、(3)品質管理、(4)会計・財務管理、(5)販売管理、(6)新技術研修、(7)コンピューターと情報技術、(8)各種設備管理と修理技術などである。
合資・合弁事業情況
上海汽車は、11かの国のグローバル企業と57の合資・合弁企業を設立している。合資・合弁企業の販売収入は、上海汽車の全集団の販売収入の90%以上を占める。特に、早期に開始された、独フォルクスワーゲン社とGMとの合資事業による収入の比率が大きい。
近年進められているものには、イスズ自動車との合弁事業がある。
国務院と各地方政府が、全国的な高速道路網の整備を進めている中で、トラックによる物流、バスによる人の移動は、飛躍的に増加するものと見られている。
こうした状況を踏まえ、上海汽車はイスズ自動車と2004年から、第1段階として大型トラックを製造する合弁事業計画を締結している。初歩計画では、年間1万台の10トントラック生産を目指す予定で、このための技術者と製造過程の労働者の研修を充実させる計画を急いでいる。
海外への投資と輸出戦略
「走出去」の経営方針の下、近年幾つかの国への投資と輸出事業計画が準備されている。
2002年、上海汽車は、GM大宇社の10%の株式を購入した。これにより、GMとの関係強化とアジア地域での販売事業の発展を計画している。また、フィリピンへ、2001年から5年間に5000台の中型バスを輸出する計画を打ち立て、2001年には、150台、2002年1月から9月までに830台輸出した。
また、米国の自動車会社に部品を販売するために、2001年5月には、初めて、米国で自動車部品の見本市を開催した。
2001年の初めて輸出による収入を計上し、輸出額は、1億7000万ドルに達し、2002年1月から9月期で1億9000万ドルに達している。
上海汽車は、今後、アジア諸国を中心に、完成車の販売増加を計画しており、今後は、自動車の国際的市場に精通した販売員の養成を計画している。
自社系列銀行の設立と新規人材養成
上海汽車は、自社系列銀行の上海汽車集団財務有限会社を設立している。これは、海外の自動車会社の経営方式を移入したもので、集団企業内部の資金の効率的な決裁、管理を目的とした企業内銀行である。系列会社は、この銀行を通じて、送金や資金の借り入れ実施している。
この銀行の主な業務内容は、預貯金業務、貸付業務、投資業務、決裁業務などで、業務範囲は増加する傾向にある。このため、上海汽車は、今後金融業務に精通した人材養成する準備を進めている。
注
- 「日系企業、高まる中国依存」日本経済新聞社2002年12月12日朝刊第14頁を参照。(本文へ)
- 2002年11月号にて中国第一汽車集団公司、2003年1月号にて東風汽車集団公司について掲載。(本文へ)
2003年2月 中国の記事一覧
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- 北京市政府、外資系企業の人材紹介業への進出を奨励
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関連情報
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