国土安全保障創設へ

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年2月

ブッシュ大統領は2002年11月25日、国境警備の強化など、包括的なテロ対策を目的とした国土安全保障省の創設のための法案に署名し、同法を発効させた。同省は、シークレット・サービス、沿岸警備隊など8省庁22部局を再編し、新たに創設されるもので、過去半世紀で最大規模の連邦政府再編となる。今後、60日間に、政府が議会に具体的な再編案を提出し、この議会提出から、少なくとも90日間は実際の組織移行は開始されないことになっている。政府は、2003年9月までに組織移行とそれに伴う人事異動を完了する予定である。初代長官には、リッジ国土安全保障局長が指名された。

同省は、再編対象となる22部局に雇用されている17万人に加え、創設されてから間もない運輸保安局(TSA)の空港手荷物検査係など約6万人を引き継ぐことになる。同省職員の労働者としての権利について、共和、民主両党は活発な論議を交わしたが、ブッシュ大統領が主張してきたように、大統領は、公務員の雇用保障、各種給付、団結権、労組の権利などに関し、合衆国法典(公務員法)第5編の諸規定を修正して同省職員に適用する権限を獲得した。特に、大統領は、国土安全保障省の労働者の採用、解雇、異動について大きな権限を得たことになる。

手荷物検査係の組織化を目指すAFGE

同時多発テロで、民間企業に委託されていた手荷物検査業務の欠陥が表面化したため、同業務のTSAへの移管が進められ、2002年11月18日までには、合衆国内の全429空港における手荷物検査業務をTSAが完全に引き継いだ。約60万人の連邦職員を組織している全米政府職員組合(AFGE)は、TSAが雇用する4万人以上の手荷物検査係の組織化を試みている。

AFGEは、手荷物検査係に、労組加入意志を示す授権カード署名を求めている。署名を集めることによって、政府から組織化選挙の実施を許可されることが目的である。TSAの検査係の上司が警備に気を使っているため、仕事中は、AFGE組合員が手荷物検査係に話しかけにくい。検査係の多くも、AFGEの組合員と接触していることを上司に知られたくないと考えているため、労組への勧誘は通常の公務員の場合よりも難しい。AFGEは、ワシントン近郊のレーガン・ナショナル空港で超過勤務手当が支払われていないなどとする手荷物検査係の苦情を参考にしながら、効果的な勧誘方法を模索している。

国土安全保障省創設に関する法に基づき、安全保障上の理由から政府が手荷物検査係の組織化を認めない可能性がある。しかし専門家は、手荷物検査係を代表して労働組合が労使交渉を行うことが安全保障への脅威になるという主張に根拠があるとは考えにくいことから、組織化が禁止される可能性は低いと考えている。ただし、政府が組織化を許可しても、2年足らずのうちに各空港は、手荷物検査業務を民間企業に委託できることになっている。

連邦職員の賃上げ抑制

ブッシュ大統領は2002年11月29日、同時多発テロ後の国家緊急時の措置として大部分の連邦職員の賃上げ幅を2003年1月から抑制すると発表した。1990年に通過した法律によって、連邦職員の賃上げは、全員に適用される3.1%の賃上げと、各地域の民間企業賃金に基づく賃上げの2つの部分から成る。大統領は、後者を凍結する。ただし、軍人には4.1%の賃上げを実施し、賃上げ抑制の影響を受けない。最も大きな影響を受けるのは、ニューヨーク、ボストンなど地域の賃金が高い都市部の連邦職員である。

大統領は、3.1%の賃上げは現在のインフレ率2.1%を上回っているとし、有能な労働者を連邦職員として採用することは、なお可能であるとしている。ホワイトハウスの広報担当者によると、地域の賃金水準を反映した賃上げ部分を支払うための歳出をまだ議会が手当てできていないために、賃上げ抑制が実施されることになった。なお、議会では、連邦職員に、軍人並みの4.1%賃上げを実現するための法案を1月に提出する動きがある。

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