ユーロ参加遅延で対内投資減少の恐れ

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年1月

日産自動車は2002年10月、英国がユーロに参加しない場合には、イングランド北東部のサンダーランド工場に対する追加投資をしない可能性があると発表した。フランスの自動車会社、PSAプジョー・シトロエンも同様の声明を出している。ユーロ参加の遅延により対内投資が減少し、雇用の縮小につながるとの懸念が出始めている。

自動車大手の追加投資に暗雲

日産自動車のカルロス・ゴーン社長は10月、BBCとのインタビューで、現在のような為替リスクが続く状況ではサンダーランド工場への追加投資は見直さざるをえないと、英国が早期にユーロ参加を果たすよう訴えた。日産の場合、同工場で生産した自動車の10台のうち8台を英国外に輸出しており、その大半はユーロ圏向け。それだけに、為替リスクのないユーロ圏への生産移転は現実味を帯びてきている。

また、フランスの自動車会社、PSAプジョー・シトロエンも、コベントリー近郊のリトン工場に1億ポンドを投じて塗装プラントを新設する計画について、英国がユーロに参加する可能性があるかどうかを斟酌して決定するとの意向を表明している。

米フォード・モータのニック・シェイラ社長も、11月末に開催された英国産業連盟(CBI)年次総会で「英国のポンド経済の下で企業は生産や輸出で(ユーロ圏の企業と比較して)25%も多く税金を課せられているのと同じだ」と、あらためて早期参加を訴えている。

相次ぐ表明を受けて、ユーロ参加の遅延によって対内直接投資が減少すれば、早晩、雇用は縮小せざるをえないとの懸念がとくに労組の間で出始めている。

対内投資の急減

こうした懸念を裏付けるような報告が発表されている。ユーロ参加推進団体の「ブリテン・イン・ヨーロッパ」の調べによると、1999年にユーロが導入されて以来、ユーロ圏内の貿易は対GDP比で20%増加しているのに対し、英国とユーロ圏との間の貿易は確実に減少している。対内直接投資に関しては、英国はこれまで欧州外から欧州内への投資の半分を受け入れてきたが、ユーロ導入以降はその割合は4分の1まで落ち込んでいる。その間に、ユーロ圏内の直接投資は4倍に増えている。ユーロ圏内ではもはや為替リスクが存在しないことから、企業は欧州市場全体を視野に最も低コストで供給できる地域に生産を移転しつつあるとの見方が有力だ。

同様な調査結果が会計大手アーンスト&ヤングからも出ている。英国への新規投資件数は、2000年上半期には300件を超えていたが、2001年同期に200件となり、そして2002年同期には150件まで落ち込んだ。新規投資件数は3年間で半分に減り、欧州市場でのシェアも2001年同期の22%から16%へ低方した。一方、EU内の競争相手国であるフランスとドイツには大きな変化は見られない。

こうした結果を受けて、ユーロ参加推進派は勢いづいているものの、最近の世論調査ではユーロ支持はまだ弱く、ユーロ参加の是非を問う国民投票は2003年中には実施されないとの見方が支配的だ。

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