ニューディール政策の効果に疑問符

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

イギリスの記事一覧

  • 国別労働トピック:2003年1月

政府の「福祉から仕事へ」プログラムの柱をなす雇用政策、「ニューディール政策」の効果が疑問視されている。同政策を通じて職に就いたかに見える者の大半は、実際には、堅調な経済状況を背景に、遅かれ早かれ就職できたのではないかと言われている。

「ニューディール政策」は、労働党が1997年に政権に返り咲いた際に打ち出した雇用失業対策である「福祉から仕事へ」プログラムの柱をなすもので、失業者を1.若年者、2.長期、3.障害者、4.一人親、5.中高年、6.失業者の配偶者--の6つのカテゴリーに分類し、それぞれに応じた対策を講じてきた。

若年失業者対策

なかでも1998年に導入された若年失業者対策(New Deal for Young People=NDYP)(注1)は、これまでに約40万人の若年層を職に就かせたと言われ、政府がその成果を喧伝する一方で、労使からも高い評価を受けている。英国産業連盟(CBI)は若年層の再就職支援で決定的な役割を果たしていると述べ、労働組合会議(TUC)は英国史上で最も成功した労働市場政策だと賞賛している。

ところが、イギリスで最も権威のあるシンクタンクの一つ、経済社会研究所(NIESR)がニューディール政策の効果に疑問を投げかけている。それによると、NDYPが最初の2年間に減らした若年失業者はわずか3万5000人にすぎない。NDYPを通じて職に就いたと見られている若年者の大半は、実際には、堅調な労働市場のおかげで早晩就職できたはずだと見ている。

一人親失業者対策

同じく、成功しているかに見える一人親失業者対策(New Deal for Lone Parents=NDLP)についても、その効果が疑問視されている。NDLPは、所得補助を受けている一人親に対して求職活動への支援やアドバイス、職業訓練機会を提供するものだが、一般に一人親が失業者となる理由は、子育てに時間が割かれるためであって、通常の失業者のように、技能不足が原因ではない。つまり、職に就くのに必ずしも職業訓練を必要とはしていないのだ。

NDLPの参加者は現在、11万5000人で、6種のニューディール政策のなかで最大。プログラムを終えた者の半数以上が、所得補助を受ける必要のない職に就いたが、NDYPの場合と同様に、これがNDLPの直接の効果なのかどうかが疑問視されている。

長期失業者対策

こうした疑問は、ほかのニューディール政策があまり効果を上げていないことからも、裏付けられている。

例えば、25歳以上の長期失業者対策(New Deal 25 Plus)の場合、再就職できたのはプログラム参加者の4分の1に満たない。「失業期間2年以上」という導入当初の参加資格が原因として指摘されており、政府は同条件を1年半に緩和している。

中高年失業者対策、障害者失業者対策

中高年失業者対策(New Deal 50 Plus)と障害者失業者対策(New Deal for Disabled People)も問題を抱えている。両者に共通の問題は、参加者が少ないことだ。前者について政府は初年度に10万人の参加を見込んでいたが、実際には5万6000人。後者についても最初の2年間に27万5000人に参加を勧める書状を送ったが、最初の面接に訪れたのはわずか1万8000人にとどまった。

総じて専門家の間では、ニューディール政策は現在までのところ、いずれは職に就ける可能性の高い失業者に重点を置きすぎて、就職がより困難な失業者層に対しては、それに見合った支援が十分にできていない、との見方が優勢である。

支援を希望する者は、まずゲイトウェイ期間(最長4カ月)にカウンセリングや助言を受けたうえで就職を目指す。この期間に就職できなかった者には、以下の5つの選択肢が与えられ、いずれも拒否した者は、求職者手当受給資格を失う。

助成金付き就職。企業に対し6カ月の賃金助成(週60ポンドまで)と、訓練のための費用(750ポンドまで)を助成。

  1. ボランティア団体での就労と訓練。6カ月で、求職者手当と同等の手当、訓練機会などが提供される。
  2. 公的環境保全事業での就労と訓練。6カ月で、求職者手当と同等の手当、訓練機会などが提供される。
  3. 最長12カ月間の教育または訓練。この間、求職者手当を受ける。
  4. 自営業の開業。6カ月間の助成。

2003年1月 イギリスの記事一覧

関連情報