景気減速予想により製造業中心に人員削減続く

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年1月

労働省によると、2002年10月の失業率は5.7%で前月比0.1ポイント上昇、非農業部門の雇用者数は前月から5000人減少(9月には1万3000人減少)した。10月には、製造業で4万9000人の雇用が減少し、製造業と建設業で雇用減の大部分が起きている。特に目立つのは製造業における雇用減で、2002年4月~7月には平均2万人であった雇用減が、8月~10月には平均4万7000人と減少幅が拡大している。建設業では10月は2万7000人の雇用減であった。製造業などの財生産産業では全体で7万5000人の雇用減をみたのに対し、小売業、金融サービス業などを含むサービス産業では7万人の雇用増があった。10月の平均週労働時間は34.1時間で9月に比べ6分間短くなり、9月から10月にかけての景気停滞を反映した形になった。

10月の雇用統計とほぼ同時期に発表された商務省の統計によれば、2002年9月の個人消費支出は前月比0.4%減少し、ここ10カ月で最大の減少となった。自動車大手各社が行なったゼロ金利ローンによる車への需要創出効果がほぼ出尽くしたこともあり、耐久消費財の消費は前月比5.1%減少し、高価な買い物を手控える動きが出始めている。ただし、9月には低金利住宅ローンで一戸建ての建設は増加した。

研究機関のコンファレンスボードによると、10月の消費者信頼感指数は9月の93.7から79.4へと大幅に低下し、過去9年で最低の水準まで落ち込んでいる。イラク攻撃がどのような形で行われるのかわからないこと、株安で資産が目減りしたことなどが背景にある。コンファレンスボードの調査によると、2002年10月には、調査対象の5000世帯のうち14.8%だけが、労働市場で多くの求人があると回答しており、これは1994年5月以来の低い数字となっている。

今後の見通しについては、2002年第3四半期のGDP成長率は3.1%(追記:11月26日に4%に上方修正)だが、多くのエコノミストは、失業の増加、イラク攻撃の可能性などにより、2002年第4四半期、2003年第1四半期のGDP成長率は2%以下に低下すると見込んでいる。

労働省によれば、第3四半期の非農業部門の労働生産性は年率4%上昇した(第2四半期には1.7%増)。2001年9月以来、1年間で5.3%上昇しており、過去19年で最も高い労働生産性上昇を達成した。リストラによって比較的有能な労働者が職場に残ったことや、情報通信技術の利用によって組織が効率化したことなどが労働生産性向上に貢献したと考えられている。また、1単位の産出あたりの労働費用である単位労働費用は、第2四半期の2.2%増から第3四半期の0.8%増へと上昇が緩やかになっている。

増益でも人員削減

企業経営者も2003年の景気については悲観的にとらえており、利益を確保するためコスト削減に努めている。何カ月も先に行う人員削減をすでに発表する企業が多く、たとえば、JPモルガン&チェース銀行(2200人の銀行員削減)、サン・マイクロシステムズ(4400人削減)、ボーイング社(1200~1500人削減)、コーニング社(2200削減)などが今後人員削減を予定している。多くの場合、企業収益自体は改善していても、2002年第4四半期以降の景気悪化を懸念しており、そのため労働コスト削減に乗り出し、2003年度(9月が期末)の黒字を確保しようとしている。

調査会社トムソン・ファースト・コールによるとスタンダード・アンド・プアーズ500に含まれている主要企業(大企業ばかりではなく中小企業も含む)500社の第3四半期の利益は、前年同期比で7%増と2000年第3四半期以来の好業績になると予想されている。しかし、収入については約3%の増加にとどまり、各企業はコスト削減努力によって利益を生み出している。

大規模レイオフ(一企業が一度に50人以上を解雇)により解雇された労働者は、2002年の初めの9カ月間で160万人に達した。これは、2001年同期の大規模レイオフの統計、170万人を下回っているものの、90年代後半に比べ、かなり高い水準になっており大企業の人員削減が活発であることを窺わせる。しかし2002年通年では、その解雇者の数は、同時多発テロがあった2001年に大規模レイオフで解雇された250万人を上回ることはないと予想されている。

2002年7月~9月の設備投資は0.6%増で、ソフトウエア購入などが増加した。工場、オフィスビルなど、多額の新規投資は控える傾向がある。同様に新規雇用も手控えられている。イラク攻撃などの不確定要因を前にして、企業が労働コスト削減を続けるならば、2003年にかけて失業率が上昇することが懸念される。

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