シュレーダー首相続投

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年12月

2002年9月22日、ドイツの連邦議会選挙(総選挙)が行われ、歴史的大接戦の末、シュレーダー首相率いる社会民主党(SPD)と90年連合・緑の党の赤・緑連立政権が僅差で保守中道陣営を敗り、同首相の続投が決まった。これによって、直前のスウェーデンの総選挙に続いて大国ドイツでも社会民主党主軸の政権が継続し、欧州政局の保守回帰の傾向に歯止めがかかった形になった。

以下、総選挙の経過と第2次シュレーダー政権の今後の課題を簡単に概観する。

(1) 総選挙の経過

かなりの実績を残して支持率の高かったシュレーダー政権は、特に2001年9月11日の米同時多発テロ後の景気と労働市場の低迷の影響で、総選挙までに失業者数を350万人未満に減少させるという公約の達成を2001年11月には断念することを余儀なくされ、続いて2002年1月には全ドイツの失業者数も心理的大台である400万人を再び突破した。このように雇用状況が好転しない中で、SPDは世論調査の支持率でも最大野党キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)に一時大きく水をあけられて劣勢が続き、労働市場改革の切札として8月16日に正式に提出されたハルツ委員会答申も、有権者の支持率回復には大きく寄与しなかった。

しかし、この時期に東欧を襲った150年振の洪水に対するシュレーダー首相の危機管理に際してのリーダーシップが高く評価され、また米国のイラク攻撃にドイツ軍を派遣することを明確に拒否した同首相の断固とした態度が、この問題に煮え切らない態度しか示さなかった野党のシュトイバー候補との対比で、イラク派兵反対のドイツ国民の支持を得ることになった。さらに、両首相候補の2回の公開討論でもシュレーダー首相の評価が上回り、もともと高かった同首相個人に対する支持率のほかに、SPDの支持率が再び高まることになり、選挙直前の世論調査では、与野党の支持率が空前の拮抗を示すことになった(主要世論調査機関の調査では、アレンスバッハの9月17日の調査でCDU・CSUが37.3%、SPDが37.0%、フォルザの9月18日の調査でCDU・CSUが38.0%、SPDが40.0%)。

このような緊迫した状況下で行われた9月22日の総選挙は、事前の予想に違わぬ歴史的大接戦となり、SPDとCDU・CSUが得票率38.5%で並び、結局両主要政党の連立相手の帰趨が最終的な勝敗を左右することになった。SPDの連立相手の緑の党は、フィッシャー外相の個人的な人気が手伝い、また環境保護政党としての従来からの環境保護政策が洪水被害との関連で評価され、過去最高の8.6%の得票率を獲得した。これに対してCDU・CSUの連立相手の自由民主党(FDP)は、選挙直前のメレマン副党首の中東紛争と関連した反ユダヤ主義的な発言が、この問題に敏感なドイツ人の反発を買い、結局得票率7.4%に留まった。この結果、SPDと緑の党が辛うじて過半数を制することになり、シュレーダー首相の続投が決定した。なお、旧東独の政権党だった社会主義統一党(SED)の後身である民主社会党(PDS)は、直前のスキャンダルもあって得票率4.0%に留まり、連邦選挙法の「5%条項」を満たせず(注1)、小選挙区で獲得した2議席に留まって惨敗した。

主要政党の獲得議席数(603議席中)と得票率は以下のとおりである(得票率は、前回1998年総選挙の82.2%を若干下回り、79.1%だった)。

議席数と得票率:SPD;251議席、38.5%、CDU・CSU;248議席、38.5%、緑の党;55議席、8.6%、FDP;47議席、7.4%、PDS;2議席、4.0%。

(2) 今後の課題

第2次シュレーダー政権は、まず選挙中にイラク問題で米国との関係が悪化したことに対して、英国にも働きかけて米国との関係修復を模索しているが、国内的には主に次のような課題を抱えている。

  1. 失業対策:公約達成を断念することになった大量失業問題については、シュレーダー首相も選挙中、第2次政権の最優先課題にすると公言してきたが、そのためにはハルツ委員会が答申した職安改革や派遣労働の規制緩和等の労働市場改革案を、選挙直前の閣議決定どおり、即座に実行に移すことが重要になる。リースター労相も選挙後に、ハルツ提案を二つに分けて可能な部分から早急に実施すると述べている。
  2. 年金保険料の引き上げ防止:リースター労相は、第1次シュレーダー政権の年金改革法の成立に際しても、社会保険料率を賃金の40%以下に押えることを公約し、年金保険については、総選挙がある2002年度は法定の最低準備金の取り崩しで何とか保険料の引き上げを抑えたが、2003年度は連邦政府も保険料率の上昇を見積もっており、これをいかに抑えるかが問題になっている。
  3. 疾病金庫の赤字改善:疾病保険の保険料率はこの1年間で平均0.5%上昇し、このためこれを折半する被保険者である被雇用者と使用者は年間45億ユーロの追加徴収を受けている。だが、それでも疾病金庫は2002年上半期で既に24億ユーロの赤字を記録しており、早急の改善が課題になっている。
  4. 財政赤字の改善:アイヘル蔵相の緊縮財政政策で、財政赤字を国内総生産(GDP)の3%以内に抑えるというマーストリヒト条約の財政安定協定を連邦財政は辛うじて順守しているが、欧州連合(EU)委員会は現在協定順守に関して警告状を準備しており、さらにEUは、2004年までに財政均衡を達成する目標の実現は不可能だと見ている。現在EUで、2004年の目標達成期限についても議論されているが、この問題もシュレーダー政権の重要課題になっている。
    このような課題を抱えながら、現在SPDは緑の党との連立協定の締結を進めており、与党勝利に貢献した緑の党の閣僚ポストが一つ増加することのほかに、外相、蔵相等の主要閣僚は留任することが予測されているが、大量失業との戦いを焦眉の急として出発した第2次シュレーダー政権の今後の行方が注目される。

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