政労使の三者協議制度の現状
国務院労働社会保障部は、改革開放経済の発展に伴い雇用契約が複雑化し、雇用条件をめぐる労使紛争が増加していることを考慮し、政労使の三者協議制度の法的整備を進めている。地方政府も、労使紛争の速やな解決を目指し、様々な制度を試行し始めている。
1 法制度と組織
中国の労働争議解決方法は、労働法(注1)、国務院令第117号の通達、各地方政府の労働争議処理条例の規定に法的・政策的根拠があり、それを実施する組織として、企業内労働争議調整委員会、地方労働争議仲裁委員会、地方裁判所がある。
(1) 労働争議調整委員会
労働法第80条により、企業内に労働争議調整委員会を設立することが許可されている。同委員会は、次の委員により構成される。
- 労働者側代表(労働者代表大会或は労働者大会により選任された者)
- 経営者側代表(工場長あるいは総経理が指名した者)
- 工会代表(工会委員会が指名した者)
経営者側の代表は、同委員会の構成員総数の3分の1を超過してはならない。同委員会の主任は、工会代表が担当する。工会の未組織企業では、企業代表と労働者代表が協議して同委員会の主任を決める。
同委員会は、調整申請が出された日から30日以内に、当該労使紛争の調停案を提示しなければならない。申請者は、調停案に同意できない場合、あるいは同委員会が、30日以内に調停案を公表できなかった場合は、地方労働争議仲裁委員会に提訴する事も可能である。
ただし、労働争議調整委員会への提訴は、必須手続きではなく、労使双方は、直接地方労働争議仲裁委員会に提訴することができる。
(2) 地方労働争議仲裁委員会
地方の労働争議仲裁委員会は、労働争議の仲裁を専門に実施する機関である。区(直轄市)、市、県の人民政府は、この委員会を設立し、争議の仲裁を引き受けている。
同委員会は、労働行政所轄部門の代表、当該地域の工会代表、政府が指定する経済管理部門の代表から組織され、委員長は、労働行政部門の代表が担当し、事務機関を設けなければならない。
当事者は、労働争議発生後60日以内に同委員会に提訴できる。同委員会は、提訴受理後60日以内に仲裁案を提示しなければならない。ただし、案件が複雑な場合は、30日以内の延期ができる。
当事者は、仲裁案に同意できない場合は、仲裁案提示後15日以内に地方裁判所に提訴できる。
(3) 地方裁判所
地方裁判所も、労使紛争を民事訴訟法のもと調停する任務を受け持つ。地方裁判所は、起訴を受理した後、6カ月以内に判決を下さなければならない。ただし、特殊な要因により延長を必要とする場合は、最高6カ月間の延長をする事ができる。また、それ以上の延長が必要な時は、上級裁判所の許可を必要とする。当事者は、判決に不服の場合は、判決後15日以内に上告できる。
2 各地方の実情
各地方政府の指導者、労働行政担当者は、労働争議の予防・解決を目的に、様々な取り組みを始めている。
(1) 山東省
山東省は、2002年6月、省労働社会保障庁、省総工会、省企業連合会が、合同で会議を開催し、山東省労使関係協調三者会議の創設を決定した。同会議は、原則的には、半年に1回開催し、必要のある場合は、臨時開催する。
この会議の創設目的は、労使関係に関わる重要問題に対する協議を定期化し、労使関係の安定を促進することにある。
主な協議内容は、次の通りである。
- 労働協約制度、労働契約制度の推進と改善策
- 企業の制度改革に伴う労使関係の調整
- 企業利益と合理的な賃金配分
- 最低賃金の設定
- 労働時間と休暇日数の取り決め
- 労働環境と安全の確保
- 婦人労働者と未成年労働者に対する特別な保護策
- 労働争議の防止と処理方法
- 経営管理への労働者の民主的参加と労働組合の組織化
- 労使関係の調整及び双方の権益に関係する諸問題
(2) 重慶市
重慶市は、直轄市に格上げされ5年を経過したが、平等協議と労働契約制度の採用を国有企業、集団企業、私営企業に推奨し、労使関係の安定化を促進している。
市政府の統計によると、国有企業、集団企業で、平等協議と労働契約制度を採用している企業は、80%に達している。一方、私営企業でも60%にまで増加した。労働契約締結の内訳は、特定の業種、区域によるものが72、企業単位によるものが2034である。
(3) 瀋陽市
瀋陽市の総工会、経済貿易委員会、工商局などの5つの部門は、2002年3月に、共同で、「非公有制企業の労働者代表大会制度の推進に関する指導的意見」を公布した。
瀋陽市には、私営企業が約2万あり、その労働者は、40万人に達している。政府は、過去、私営企業の経営者に対し、平等協議制度を導入し、労働者も経営に参加できるようにを促進してきたが、多くの問題に直面していた。
今回の指導により、非公有制企業の労働者代表大会の主要任務と職権内容を規定された。主要任務の主な内容は、つぎの通りである。
- 労働者が企業経営に民主的に参加するよう制度化する。
- 企業の労務管理における関係法の遵守、実施を監督する。
- 労働者の政治的権利と経済的権利を保障する。
- 企業内労使関係の調整に注意する。
- 労使間の協議を制度化する。
この労働者代表大会の具体的な権利は、次ぎの3つである。
- 労働者の利益に直接影響を与える重要な改革案は、労働者代表大会の審議・採択を必要とする。
- 国が規定した、養老年金制度、医療保険制度、失業保険制度、労災保険制度などの保険料納付に付いては、監督権を有する。
- 企業の中間管理職に対する評議・監督を実施し、賞罰と任免を提案する権利を有する。
これらの内容は、労働者権益保護を強化したものになっている。しかし、現地の労働行政担当者は、私営企業の経営者が、どの程度まで遵守するかは、未定な部分が多いと見ている。一部の労働者は、不況の瀋陽市では、このような厳しい労働者保護政策がない限り、私営企業の労働者の権益保護は難しいと主張している。
注
- 労働法の主な条項は、第78条、第79条、第82条、第83条などである。(本文へ)
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