西海岸港湾封鎖、タフト・ハートレー法により10日で解除

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年12月

海運会社から成る太平洋海事協会(PMA)は、国際港湾倉庫組合(ILWU)に属する1万500人の西海岸で働く港湾労働者が9月末に怠業していたと主張、対抗策として2002年9月29日(27日?29日まで暫定的港湾封鎖)から太平洋の29港で港湾封鎖(ロックアウト)を実施した。

港湾封鎖により、コンテナ船が沖待ちを強いられるなど、輸出入に大きな影響が出た。港湾封鎖による経済的影響は、一日当り5億~10億ドルと言われる。西海岸の港湾は、コンテナ詰めされた荷物に限ってみれば、全国の輸出入量の約半分を扱っており、特に中国との貿易量の増加は著しい。最近の工場の多くが部品を迅速な搬送に頼って部品在庫の減少に努めているため、港湾機能が停止すれば、比較的短期間に組立工場の生産に支障が出る。特に10月はクリスマス商戦を前にアジアからの輸入品の入荷が最も多くなる時期にあたり、港湾封鎖による経済的損失は特に大きい。中でも大型コンテナ船はパナマ運河を通過できないので東海岸に容易に達することができず、米国東部の荷物発着地と西海岸とを結ぶ代替的な海上輸送手段の確保は困難である。

港湾封鎖により、いくつかの日系企業が生産調整などを検討している。トヨタとGMの合弁企業NUMMI社(カリフォルニア州)が部品不足のため、10月3日(木)午前などの操業を一時停止した。トヨタ、日産は北アメリカの各工場の時間外生産を縮小した。ソニーは、コンピュータ部品の配送を空輸に切り替えることで対応している。

西海岸では、貿易量の増加に比べ、港湾スペースが不足しており、海運会社は、積み荷のコンピュータ管理などの自動化を長年の懸案事項としてきた。ところがILWUは、新技術導入後に外部の契約者が使われ、ILWUの組合員の職が失われるのではないかと危惧し、新技術導入に抵抗してきた。

PMAとILWUとの間の前協約は2002年7月1日に協約期限を迎えた。協約改定の最大の争点は、新技術導入に伴う雇用保障や、新技術導入に伴って生じた新しい仕事に組合員が就くことができるかどうかである。PMAは、東海岸や諸外国に比べ、自動化、合理化が遅れている西海岸の荷役作業に、携帯型コンピュータやバーコードなどを用いた新技術を導入し、同じ人数でより多くのコンテナを扱うことを希望している。これに対し、新技術の導入とともにILWUの組合員が非組合員に置き換えられてしまうのではないかと懸念する。ILWUは、1950年代には10万人の組合員を擁していたが、新技術の導入などで組合員数は減少している。それでも同労組は、ブルーカラー労組の中でも、好労働条件で働く労働者から成り、父子ともにILWUに加入している家族も多い。PMAによると、平均年収(労働時間2080時間の場合)は、積み荷を上げ下ろしする港湾労働者で8万5952ドル、積み荷の記録をつける事務員で9万2860ドル、職長で10万4566ドルとなっている。

港湾封鎖後、10月3日に連邦政府の調停で労使が交渉を再開した。PMAは労働組合員に対し、賃上げ、医療保険の無償提供、労組の年金プランの10億ドル増額などを提案した。また、もし労組側が新協約を承認する過程で90日間の協約延長に合意するならば、PMAは港湾封鎖を解除すると提案した。しかし労組によれば、使用者側がそれまでに同意していた条項について考えを変えたため、10月6日に話し合いが頓挫した。

タフト・ハートレー法による港湾封鎖解除へ

大統領は、国民の健康と安全が危険にさらされていると判断した場合には、タフト・ハートレー法に基づき、ストあるいはロックアウトに対する80日間の差し止め命令を裁判所に求めるよう、司法長官に要請することができる。製造業、農業、小売業など50以上の業界団体は、大統領に対し、タフト・ハートレー法による、国家緊急事態における80日間の争議差し止めを要求し、大々的なロビー活動を行った。大統領はこうした産業界の意向を受け、10月7日、港湾封鎖の事実関係を調べる調査委員会を発足させた。調査委員会の報告を受け、大統領は10月8日、タフト・ハートレー法による港湾封鎖強制解除をサンフランシスコ連邦地裁に要請した。同連邦地裁は10月9日、港湾封鎖の強制解除の仮命令を発し、労働者を職場復帰させ、これにより争議禁止を伴う80日間の団体交渉期間が開始した。さらに同連邦地裁は10月16日、80日間の団体交渉期間開始を正式に承認した。

80日間のうち、60日間は団体交渉期間で連邦調停者を交えて交渉を行い、事実関係について連邦職員が報告書を作成する。続く15日間には全国労働関係局(NLRB)が、経営側の最終的な提案について従業員側が受け入れ可能と考えているかどうか従業員の意思を調査することに費やされる。そして最後の5日間に、組合員の票を数えるために用いられる。この投票で、労組が使用者側の提案を拒否した場合、労組はストを行うこと、また、使用者はロックアウトを行うことが許可される。

タフト・ハートレー法は1947年制定以来、これまで35回用いられてきた。そのうち21回は民主党大統領による。最後に同法に訴えたのは、24年前のカーター大統領だが、この時には、炭鉱労働者による争議の差し止めを裁判所が承認しなかった。なお、ロックアウトに対してタフト・ハートレー法を用いたのはブッシュ大統領が初めてである。

ただし紛争解決手段としての同法の効力は限られている。イリノイ大学の労働法専門家マイケル・ルロイ氏によると、同法は、経済を1カ月余りの間、平常時の状態に戻すことができるが、根本的な労使紛争解決に寄与することは稀である。実際、これまで35回のうち10回は労使紛争が紛糾し、同法による80日間の団体交渉期間の後にストが起きている。

ブッシュ大統領が同法に訴えた理由は、主に港湾封鎖の経済的影響の大きさである。ホワイトハウスのエコノミック・アドバイザーの推計によると、港湾封鎖が10~14日間にとどまれば経済的影響は限定的だが、その後は、各社の在庫が底を突くため、指数的に損害が増加していき、やがて1日当り10億ドルに達する。各社が減産に踏み切れば、失業者が増加する可能性もある。期間内に労使紛争が終結しない場合でも、港湾封鎖を80日間先延ばしすることでクリスマスへの影響を避けることが可能になる。11月上旬に予定された中間選挙を前に、経済攪乱要因を放置するわけにはいかないという事情もあった。

アメリカ労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)は10月7日、タフト・ハートレー法を用いようとしていた大統領について、労使紛争に介入し、不公平に使用者の味方をしていると批判した。ブッシュ大統領は鉄道労働法に基づき、2001年にも大手航空会社の3件のストを阻止した。AFL-CIOは、今までの大統領に例を見ないほど、ブッシュ大統領が、今後も積極的に団体交渉に介入するのではないかと推測しており、今後、他の労使紛争についても、使用者が政府に介入を要請するのではないかと懸念している。

封鎖解除後も港湾作業は遅れ気味

港湾封鎖解除後、荷役作業が正常化するまでには時間がかかりそうである。約一週間経っても100隻を超える貨物船が荷揚げの順番を待っている。使用者側は、人数不足などで港湾労働者の作業効率が通常よりも20%~25%低下していると述べている。これに対し、ILWUは10日間の封鎖で港湾が混雑してための効率低下であると反論する。

ILWUは労働者に対し、協約および連邦法で定められた通り、安全に働くようにアドバイスしている。AFL-CIOのスウィーニー会長も10月11日、チャオ労働長官、カリフォルニア、オレゴン、ワシントン各州知事に書簡を送り、西海岸港湾に労働安全衛生監察官を配置するよう要請した。

裁判所命令は、平常のペースで仕事をすることを港湾労働者に課しているが、実際には、意図的な怠業と、安全基準を遵守するためのゆっくりした仕事の速度とを厳密に区別することは難しい。港湾労働者によると、労働協約では最高時速10マイルで輸送車を運転することになっているが、使用者は時速30マイル以上で運転させようとしている。ILWUによると、2002年5月以来、港湾作業中に3人が亡くなっており、安全キャンペーンは、混雑した港湾では危険性がより高まっているために行われている。

PMAは、ILWUが意図的に作業を遅らせていると批判し、10月16日あるいは17日に、生産性に関する記録を司法省に提出するかどうか真剣に検討しているとした。この記録が提出された場合、司法省は、サンフランシスコ連邦地裁に正式な申し立てをするかどうか決定することになる。一方、ILWUは怠業の事実を否定し、PMAが労働生産性の低下を過大推計しているとして非難した。

ILWUのスポークスマンによれば、カリフォルニア州の労働安全衛生局(OSHA)が10月18日に、ロサンゼルス、ロングビーチ、オークランド各港に監察官を派遣した。

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