最近の雇用環境

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年11月

フィリピンの最近の労働事情は、高い失業率、外資系企業から見た労使関係、経済特別区の労働基準遵守状況に現れている。

高い失業率

フィリピンの最近の雇用環境は、高い失業率の更なる悪化によって特徴づけられる。特に、以下に述べる要因が、高い失業率を惹起している。

  • 貿易の自由化に伴う関税の撤廃、企業の経営合理化、公営企業の民営化により、失業率はますます悪化しつつある。特に貿易の自由化のインパクトが大きく、経営者団体と労働組合は、2003年1月までに、非関税化が猶予されている貿易品目の関税を撤廃する取り決めの延期を要求している。
  • 農業部門を中心に、81万の雇用を創出したにもかかわらず、失業率に改善の兆しは見られない。政府は、雇用対策を重視しているが、巨額の財政赤字は、雇用対策のための財源を逼迫しているのみならず、公共部門の合理化は失業率の悪化につながっている。なお、2002年7月の段階で、財政支出は1330億ペソに達し、1300億ペソ以下に押さえるという当初の政策目標は既に破られている。
  • 雇用を求めるため、海外に渡航するフィリピン人はますます増えている。労働省(DOLE)は、非公式の要因も算入すると、海外出稼ぎ労働者は、年間80万人にも昇ると見積もっている。ただし、近年は、現地の悪い労働環境に幻滅して帰国する労働者も多い。加えて、先進国が、2001年9月の同時多発テロを契機に不法移民の取締りを強化し、強制帰国の対象となっている労働者が増加している。しかし、高い賃金に慣れてしまった海外出稼ぎ労働経験者は、帰国後、職に就こうとせず、結果的に失業率の悪化の要因になっている。

外資系企業から見た労使関係

外資系企業は、フィリピンの対立的な労使関係改善のため、(1)労働問題を労働大臣の直接管轄下に置き、重要国益産業の対象企業を拡大すること、(2)労働者の迅速な解雇を可能とするような労働法の規制緩和を求めている。

しかし、労働組合側は、こうした政策提言は、一層の労働権の保護を求める国際的な動きに逆行するものであると反発している。

ただし、最近、労使関係担当次官の人選次第では、外資系企業の提言が、採用される可能性が出てきている。

労働基準条例違反事例

最近、TUCPは、フィリピン経済特区内の大多数の製造業の企業は、経済特区外の製造業の企業に比べ、児童労働の禁止を除いて、団結権の保障や、無酬労働の禁止といった、ILO条約上の労働基準を遵守していないことを指摘した調査結果を発表した。

TUCPは、高い失業率や不完全雇用労働者人口といった要因が、このような労働基準違犯事例の恒常化につながっていると分析している。

表2:TUCPによる労働基準条例違反情況
  全国 TUCP調査
労働基準を何らかの形で、遵守していない企業件数 51.2% 59.4%
最低賃金を遵守していない企業件数 26.9% 23.8%
事故防止にむけた安全対策を遵守していない企業件数 17.2% 59.4%

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