最近の最低賃金引き上げ情況

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年11月

フィリピンの多くの労働者は、最低賃金で就労している。このため、各政権にとって、その引き上げ問題は、労使関係を安定させる上で最重要課題となっている。近年の最低賃金の引き上げ交渉情況は次のようになっている。

2001年、マニラ首都圏の引き上げ情況

マニラ首都圏の最低賃金の引き上げは、労働組合が最も重要視する地域で、他地域に与える影響も大きい。

2001年7月、穏健派のフィリピン労働組合会議(TUCP)は、マニラ首都圏については77ペソ、その他の地域は一律50ペソ最低賃金増額要求を、政府に提出した。一方、急進派の「5月1日運動」(KMU)は、全ての地域について、一律125ペソの増額と、現行の地域別最低賃金制度の撤廃を要求した。

こうした賃上げ要求に対し、フィリピン経営者連盟(ECOP)は、厳しい経済環境を理由に、大幅な最低賃金の増額は更なる事業の縮小と追加的な解雇にしかつながらないと反発した。

アロヨ政権は、世界的な景気の停滞を考慮し2001年は、最低賃金の引き上げを見送り、代わりに緊急生活手当(ECOLA)支給を決定した。その主な内容は、次ぎの2点である。

  • 一日当り、50ペソの緊急給付金を支給すること。
  • 年収7万ペソ以下の給与所得者については、経済環境が改善するまで課税を6カ月間全額免除する。

地区別最低賃金の引き上げ情況

2002年の、各地域の最低賃金の引き上げ情況をまとめると次のようになる。なお、同一地域内でも最低賃金は、地域内の経済情況により細分化されている。

表1:各地域の最低賃金引き上げ情況
地区の名前 増額した金額 特別手当
マニラ首都圏 非農業労働者について、250ペソから290ペソに増額 ECOLAを一日当たり30ペソ支給すること。
RegionⅢ 中部ルソン地方 20ペソ増額  
RegionⅣ 南部タガログ地方 8から20ペソの間で、増額(但し、TUCPは、同処置に不満を表明)
RegionⅥ 西部ビサヤ地方 8から20ペソの増額  
RegionⅦ 中部ビサヤ地方 5ペソの増額
RegionⅧ 東部ビサヤ地方   最低賃金で働いている労働者に対し、一日当り11ペソのECOLAを支給
Region XI 南部ミンダナオ地方   生活給付金(COLA)として15ペソを支給
RegionXII 中部ミンダナオ地方 Cotabato、 Kidapwan、 Tacurongについては、日当給を20ペソ増額、南CotabatoとSaranganiについては、日当給2ペソの増額、Gen. Santos市については変化なし  
RB X(日本語名は著者校正時に追加) IiganとLanao del Norte市における、日当給190ペソ取得者については、日当給与を3から20ペソの間で、段階的に引き上げる 日当給210ペソ取得者については、12ペソのCOLAを支給
RB XIII(日本語名は著者校正時に追加) 最低賃金を6ペソ増額 12ペソのCOLA支給を今後も継続
RB IX(日本語名は著者校正時に追加) 最低賃金所得者については、10ペソのCOLAを支給
RB CAR  コーディレラ地方 Baguio市における非農業労働者については、5ペソの増額、また0ペソから34ペソの間で、賃金の段階的な増額を実行

労働組合側から見た最低賃金制度を巡る問題点

最低賃金制度は、多くの問題を抱えているが、労働組合側からは次の諸条項に対し、不満が出ている。

  • 輸出比率が50%以上かつ一年先までの輸出契約が成立している企業については、最高12カ月間新賃金の適用が猶予されている。
  • 賃上げにより発生する事業所内の賃金体系に歪みが発生する場合、解決は自発的な労使交渉、交渉が破綻した場合は強制仲裁に委ねられている。しかし、組合は、問題解決のためストライキやデモに訴えることが禁止されており、多くの場合、最低賃金の増額の恩恵を帳消しにしてしまう賃金調整を承諾せざるをえない。
  • 賃金決定命令を下す上で、考慮に入れられる基準・要素が多く、加えて細分化されており、一般組合員には非常に理解しにくい。

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