USエアウェイズ社、破産法11章適用申請

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

アメリカの記事一覧

  • 国別労働トピック:2002年11月

大手航空会社のほとんどは、同時多発テロによる利用客の減少、格安航空会社の台頭などで業績が低迷し、大手9社の中で赤字になっていないのはサウスウエスト航空のみである。大手航空会社の中では、同時多発テロ後初めて、USエアウェイズ社が連邦破産法11章(会社更生法)適用を申請し、従業員は賃金、給付の引き下げを迫られている。ユナイテッド航空も経営危機に陥っており、労働コスト削減に向けた動きが活発化している。

大手9社の中で航空輸送安定化局から債務保証を受けようとしているのは、これら2社だけである。これまでに同時多発テロの影響を受けた航空会社から15の債務保証申請があったが、1つだけが承認されている。債務保証の条件を満たすためには、労働者、債権者などから大幅な譲歩を引き出す必要がある。債務保証の条件が厳しいことによって、労働者の賃金、給付の見直しを巡る交渉が促されている。

USエアウェイズ社

業界第7位のUSエアウェイズ社は、多額の負債を抱え、90年代末の好景気時に結んだ現労働協約が経営を圧迫していた。同社は2002年7月、労働者、債権者からの譲歩を引き出すことを条件に、9億ドルの債務保証を連邦政府から承認された。労働者との交渉を経て2002年8月上旬、2008年までの間、客室乗務員は8.4%、パイロットは26%の賃金および給付の引き下げることに合意し、5億5000万ドル以上の労働コスト削減が実現した。しかし、他の労働者グループから連邦債務保証の条件とされた譲歩を引き出すことができず、2002年8月11日、同社は破産法11章(会社更生法)適用申請を行い、債務を圧縮、労働コストを引き下げ、会社再建を目指すことになった。

8月下旬には全米機械工・航空宇宙労組(IAM)に属する手荷物取扱係、機体サービス係5400人が62%の多数票で労使間の合意を承認した。この合意は、2005年7月1日まで約8.5%の賃金引き下げ(一年当り計6500万ドル)を定める一方で、2005年7月より当該従業員は毎年2%の賃上げを得るほか、手荷物係に同社の株式、利益分配プランなどが付与することとしている。

同じIAMに属する機械工6800人は、同社が提示した賃金引き下げ案を反対57%で否決した。この引き下げ案は、2004年まで6.8%の賃金引き下げ、その後4年間の2%賃金引き上げ、そして大幅な給付削減を提案していた。IAMのロバート・ローチ・ジュニア副会長(General Vice President)は、破産審査裁判所においても、IAMの弁護士が、IAMメンバーとその労働協約を守る用意があると語っている。

2002年9月6日には、全米通信労働組合(CWA)に属する顧客サービス係、予約係など8000人が労働コスト削減に暫定合意した。その削減幅は公表されておらず、9月17日に組合員による批准投票が予定されている。

同社は、運輸労働者労組(TWU)に属するほかの労働者グループからも労働コスト削減のための合意を得ており、2002年9月9日の段階では、IAMに属する機械工6800人、そして上述のように(暫定合意には達した)CWAに属する顧客サービス係、予約係8000人が譲歩に応じていない。前者のIAM6800人は、同社の要請に応じ、8月に組合員が否決した賃金引き下げ案について9月17日に再投票する予定である。

同社は、既に8月26日に、労働コスト削減に応じない労働者の労働協約を無効にする許可を破産審査裁判所に申請している。労働者が自主的に労働コスト削減に応じない場合には、同社が裁判官に対し、より厳しい賃金引き下げを迫るものと見られている。

ユナイテッド航空

業界2位のユナイテッド航空では、格安航空会社の台頭などで経営危機に陥っているものの株式の55%を従業員が保有し、取締役会の2つの席を労組が占め、経営方針やCEOの選任に拒否権を持っているため、人件費の削減が難しい。同社は、18億ドルの連邦債務保証を申請しているが、同社の高コスト体質を温存すると他社の不利益になるとして、他の航空会社や規制当局は、同社への連邦債務保証に反対している。

同社の親会社、UAL社のジャック・クレイトン最高経営責任者(CEO)は2002年8月14日、労組などから十分な譲歩を得られなければ、30日以内に連邦破産法11章の適用申請をする可能性があるとして、労働組合に労働条件引き下げを迫った。8月30日、ユナイテッド航空側は、破産法11章適用申請を免れるためには、向こう6年間に25億ドルのコスト削減が必要であり、うち15億ドルのコスト削減を賃金・給付の22%削減によって実現する必要があると主張した。これに対して諸労組は、同社が競争力の向上に努めないまま、18億ドルの債務保証を得る目的で、労働者に計90億ドルの労働コスト削減という過分な負担を求めていることに強い反発を示した。

クレイトン氏が自身の計画通り70歳で引退した後、9月2日にUAL社新CEOに選出されたグレン・ティルトン氏(シェブロン・テキサコ社取締役会副会長)は、連邦破産法11章の適用申請は既定の結論ではないと述べ、諸労組は同氏の就任を歓迎した。

同社と航空輸送安定化局は、9月16日を同社の連邦債務保証再申請の提出期限とすることに合意していたが、新CEO就任から間がないため、同社は同局に提出期限延期を申請すると見られる。諸労組は、破産法11章適用申請を回避するための包括的な再建案をファイナンシャルアドバイザーとともに準備している。しかし、多くのアナリストは、今秋に同社が破産法11章適用申請し、労働コストなどの削減を行うものと分析している。

アメリカン航空

業界1位で比較的財務内容が良いアメリカン航空は8月13日、11万人の従業員のうち、約7000人を削減すると発表した。同社は、2001年にトランス・ワールド航空(TWA)を買収したため、同社の先任権リストの下位には多くの元TWA従業員がおり、パイロットなど先任権が定められている職種で解雇される労働者の多くは元TWA従業員になる。同社は、この人員削減で、年11億ドルを削減できるとしている。

同社も、格安航空会社、目的地までの時間よりも安価な路線を自動的に選ぶインターネット上の予約ツールの普及などの影響で乗客が減少しているが、ファーストクラスの席を減らし、乗り継ぎ時間を延長するなどの方法で合理化を試みている。同社は、これまでのところ従業員に賃金引き下げなどの譲歩は迫っていない。

2002年11月 アメリカの記事一覧

関連情報