EU諸国に比べ政府の役割が小さな工場閉鎖時の手続き

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

スウェーデンの記事一覧

  • 国別労働トピック:2002年10月

使用者にとって、ヨーロッパの他の国に比べてスウェーデンでは工場閉鎖が容易である。ただし他国では、工場閉鎖決定を巡って官僚的な煩雑な手続きを行っても、工場閉鎖の影響を受けた労働者に対して、手続きが簡単なスウェーデン以上に雇用が保証されるわけではない。ヨーロッパで政府や政府機関が行うことは、スウェーデンでは労使交渉や労働協約によって達成される。使用者が工場閉鎖や従業員解雇の決定をし、その従業員たちに社内の職を見つけられない時には、先任権に関する法律によって強力に保障された関係労組との条件交渉に臨まなければならない。工場閉鎖にあたり、スウェーデンでは当該の使用者が遵守しなければならない警告期間は他の大部分の国々より長い。この長い警告期間中およびそれ以後も、解雇された従業員たちが長期間失業せずに新しくより良い仕事につく準備ができるよう、税で賄われた制度が適用される。

2001年に起きた一連の主要工場の閉鎖と大規模な解雇をきっかけに、労働省は労働生活研究所と全国労働市場委員会にヨーロッパ各国における工場閉鎖後に関連する法律と慣行を調査するよう命じた。多国籍企業にとって、スウェーデン国内の工場を閉鎖し、賃金水準がより低い別のヨーロッパの国へ生産を移転することが容易すぎたのだろうか。労組側からは、スウェーデンがあまりに安く雇用を売り渡さないよう留意してほしいと政府に対して圧力がかけられた。

ヘルシンキ・ビジネススクールのニクラス・ブルーン教授のチームによる調査で明らかになったのは、例えばジャーマン・コンチネンタル社はスウェーデン国内のゴム工場の生産をポルトガルに移転したが、この移転は、スペインやポルトガルの法律下では不可能であっただろうということである。ヨーロッパ大陸の各国においては、1つの工場が閉鎖にこぎつけるまでに当該企業は様々な政府当局との間で数多くの交渉を行わなければならない。この点でスペインの法律が最も込み入っているようである。実際に、政府当局が工場閉鎖を阻止することも可能である。

それでは企業にとって、生産を中止し労働者を解雇するのが最も安上がりなのはどの国で、最も高くつくのはどこだろうか。社会保険制度や税制があまりに多様なため、単純に比較をするのは不可能である。使用者にとって、スウェーデン国内での工場閉鎖のコストが別のヨーロッパの国で同じことをする場合より低いと言い切ることは出来ない。しかし教授の報告書には、1つの実際的な提案が含まれている。すなわち、スウェーデンでは、工場閉鎖の早い警告に関する法律に違反した場合の罰金を増額せよとの提案である。現在のところ裁判所がこの法律に違反した使用者に科すことが出来るのは100~500クローネに過ぎない。この金額はかなり上げるべきである。

確かにブルーン教授は工場閉鎖を管理する国内規則を他国と一致させることに賛成しているが、教授はEUから規則を輸入するのではなく、スウェーデンや北欧諸国のより柔軟な規則を輸出すべきだと主張している。

スウェーデンのモデルは、政府が出来ることと労働市場当事者の役割とに厳密な境界線を引いている。それは積極的労働市場政策を通じて構造変化を促進し、新たな技術とより近代的生産に労働と資本の資源を集中させるという構想に基づき、経済成長につながる道である。構造調整の影響をこうむった労働者は、転職により他産業、他地域に移ることを受け入れなければならない。ただし次の職につくまでの期間、労働者は非常に手厚い失業保険制度の適用を受ける。

このスウェーデンモデルを策定したのは、ブルーカラー労組である。このモデルは1950年代~1980年代を通じて完全雇用を実現し、スウェーデン経済に非常に良く貢献してきた。現在ふたたびスウェーデンは、完全雇用に近づきつつある。しかしながら、労働組合幹部は、労働者の職場が収益を上げかつ現代技術の先端にあるにもかかわらず、その職場が国外に輸出されても良しとすべきだと労働者に告げることはとてもできない。

2002年10月 スウェーデンの記事一覧

関連情報