労働市場庁長官、予想される労働力不足を警告

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年10月

スウェーデンにおいては2015年までに労働者全体の約40%にあたる175万人が引退する。雇用が年0.5%増加しているので、これらの退職者を補充するには200万人の労働者が必要となる見込みで、30万人近い労働者不足が考えられる。

この労働力不足に関する予測は、7月の国政選挙キャンペーンのオープニングで労働市場庁(AMS)長官が述べたものである。AMSが政治家たちに発したこの警告がきっかけとなって、キャンペーン週間に各政党の政策も明かされ、スウェーデン国民が自らの生活水準を維持するために必要な労働力不足の解決策案が幾つか示された。

スウェーデン企業連盟に加盟する使用者たちは、非EU諸国からの熟練移住労働者に対する門戸開放を提案している。それというのも、ヨーロッパ大陸や英国の快適な環境を捨てて寒く陰気なスウェーデンで就職する覚悟のある市民はEU諸国にはめったにいないだろうと考えられているためである。

スウェーデン企業連盟は、スウェーデン国内での仕事を提供された外国人には直ちに居住、労働許可を与えるべきであると提案している。企業ニーズに従って許可を与えるべきとの提案である。非EU加盟国の国民にはスウェーデンまで来るよう奨励し、3カ月間求職のため滞在できるようにすべきであり、亡命許可を待つ難民にも、許可決定を待っている間に仕事が見つかれば同様の権利を与え、同伴の配偶者、家族にも自動的に居住、労働許可が与えられるべきである。外国人学生にもスウェーデン留学中は労働許可が与えられるべきである、としている。

1950年代および1960年代には、主に工業部門の企業人事管理者と労組代表者たち、AMSの代表で構成する合同チームがイタリアとユーゴスラビアを訪れて移住を希望する家族との面接を行った。こうしてスウェーデンにやって来た新たな移民たちは、到着早々労働組合員となった。1970年代には政治難民の数が増え、移民労働力の組織的受け入れは中止された。

スウェーデンにとって、この組織的なイタリア人・ユーゴスラビア人金属労働者家族の受け入れは非常に良い思い出となっている。同時に北欧自由労働市場は、フィンランド人を主とした北欧諸国からの大勢の移民をスウェーデンにもたらした。こうした移民政策によってスウェーデン経済は成長し、スウェーデン人の「就職しにくい」労働者にも仕事が提供された。現在全国レベルの使用者組織と労組は、1950年代、60年代の移民政策の再現とまでは行かないまでも移民労働力に少なくともある程度門戸を開くことについて話し合いを進めている。使用者たちはポーランド、モルダヴィア、インドなどへの合同採用チームを派遣することよりも、個々の移民、個々の企業に有益なリベラルな政策を求めている。工業部門で2万5000人とスウェーデン企業連盟が見積もっている熟練者不足を埋める熟練労働者に対し、使用者側はより高い賃金を支払う用意があり、現在のスウェーデン居住者だけでは欠員を埋め切れないと主張している。

労組は、非EU諸国の求職者に門戸を開くことによって経済を拡大させ産業に好影響をもたらすとする使用者の主張を理屈では理解しているものの、EUの労働力の自由な移動を東欧や開発途上諸国にまで拡大する前に、まず数多くの政治難民や他の失業者が雇用されるべきだと主張している。もちろん労組は、よりリベラルな移民政策が賃金水準に悪影響を及ぼすのではないかと懸念している。 

現在、労働市場庁(AMS)は、労働力率を上昇させれば移民労働力なしに労働力不足に対応できると提案している。そのためにAMSはその機能を強化することによって政治難民に対応し、病欠している多数の労働者を仕事に復帰させ、経験のある高年労働者が65~67才の退職までは少なくともパートタイムで仕事を続けるよう奨励しなければならない。また市民は政治家に対し、産業保健サービスを整備し、リハビリテーションを財政支援するよう求めている。それと同時にAMSは、労働者が地域や産業を越えてより生産的な職場に移ることを促進すべきである。

しかしAMS長官の警告に耳を貸そうとしない者も多かった。これまで野党各党は、9月に政権の座についたらAMSと同庁が管轄している積極的労働市場政策(職業訓練、職業教育など)を廃止すると公約している。失業対策としては所得税と法人税の減税が最善の雇用創出手段であると主張する各野党にとって、600億クローネを超えるAMSの2002年度予算は恰好の攻撃の的となっている。

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