アロヨ政権の労働政策進捗状況
アロヨ大統領は、就任初日、政権の政治理念及び政策方針を発表した。過去18ヶ月間、公約実現に向かって努力してきた。その結果いくつかの実行された労働政策により、雇用創出の効果が現れているが、今後の課題も多い。
就任時のフィリピンの情勢
アロヨ大統領の就任時、フィリピンの政治的、社会的情勢は、次のような特徴を呈していた。
- 不安定な政権基盤と社会秩序。
- 巨大な財政赤字。
- 国内外の企業からの投資額が、2年前に比較し50%も激減。
- 旱魃による被害と低い生産性による農業の停滞。
- 安価な輸入製品の流入による製造業の不況。
- ペソ安に起因する石油製品価格の上昇による物価の全般的な上昇。
- インフォーマル部門を中心とする雇用の増大と平均賃金の下降。
- 失業率の増加(女性の平均失業率は、男性のそれに比べ2%高)。
- 企業の倒産・合併による解雇労働者の増加。
- フィリピン人出稼ぎ労働者に対する海外からの求人の低迷。
アロヨ大統領の公約
アロヨ大統領は、これらの現状を踏まえ政治公約を作成した。その内容は、グローバリゼーションに対応できる企業の育成、農業の近代化、グローバリゼーションにより経済的打撃を受けた人を救済する社会保障制度の設立、環境保全などである。
アロヨ政権の労働政策の始まり
第11回下院立法審議会は、2001年2月1日、アロヨ政権に対し、経済のグローバル化に対処するため、労働法の規制緩和を中心とする報告書を提出した。しかし、同報告書は、必ずしも労働組合の見解を充分に汲み入れたものではなく、反組合的であるという理由で、労働組合の反発を受けた。アロヨ政権は、同報告書の見解を採用することを拒み、2001年5月11日の議会選挙後、同報告書が表舞台に出ることはなかった。代わりに、アロヨ政権は、政策テーマや議案作成過程を積極的に情報公開し、労働者による積極的な政策参画を呼び掛け、労働者の要望を汲み上げる手法を採用した。
アロヨ政権の労働政策の進捗状況
アロヨ政権の労働政策の進捗状況を、実行段階を3段階に分けて分析すると次のようになる。
実行に移された政策
社会保障や雇用創出を含む包括的な労働政策をうち立てるために、政・財・労の三者協議を2001年3月に実施し、社会問題における労働組合の参画を促進した。- フィリピン開発銀行といった公的機関の意思決定機構のメンバーに、労働組合代表者を数名任命した。
- 失業中の労働者のため、住宅ローンの一部を見直した。
実行されつつある政策
- 労働集約型のインフラ整備事業を通じて、雇用の創出を図る。
- 民間労働者社会保障制度(SSS)の医療保険制度加入資格を広げ、生活協同組合員、その他のインフォーマルセクターの団体も加入対象とする。
- 政府金融機関による、インフォーマル部門向けの、無担保融資制度の整備をする。
- 労働法上の保護を、在宅勤務者に拡張する。
- 労働雇用省(DOLE)内に、セクハラ、その他の差別を専門的に処理する新たな機関の設置をする。
実行されていない政策
- フォーマル、インフォーマル部門問わず、最低1年以上SSSの保険料を納入した実績を持つ失業者に対して、年間最高15,000ペソの融資制度を実施すること。
- 現状の労働委員会の制度改革。
- 全ての政策、社会事業が雇用に与えた影響を調査し、必要ならば、救済措置を実行すること。
- 政労使三者協議機関における、経営者の参画を義務付けること。
- 労働組合代表者のために割り当てられた諸ポストに、現時点で居座っている非労働組合、経営者の利害代弁者を追放すること。
- 輸出加工区における組合化の推進。
その他の労働政策
アロヨ政権は、DOLE大臣に、Sto.トーマス女史を任命した。Sto.トーマス大臣は、労働規制を守らない経営者に対しては、厳しい姿勢で望むことを表明し、また、DOLEの各役職に、DOLE出身者以外の人物を任命するなど、DOLEの改革に勢力的に努めている。また、フォーマルセクターを中心とする労使紛争の解決にも積極的に取り組み、今後は、インフォーマルセクターの労働事情改善に、より力を入れると言明している。ただし、KMUやBMPは、Sto.トーマス大臣が、最低賃金の一律125ペソ増額に反対したこと、非合法とされた臨時雇用契約の取り締まりを猶予していることを理由に、2002年6月、更迭を要求した。
アロヨ政権は、貧困撲滅委員会(NAPC)の実績に不満を持っており、2002年6月のNAPCの新人事選考において、労働者代表のための割り当てられた21席のうち、13席を労働者連帯運動(LSM)に配分した。
アロヨ政権が現在取り組んでいる重要課題は、SSSや公務員社会保障制度(GSIS)の年金制度の改革、電力会社民営化に伴う電力関係企業での労使関係の安定化である。
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