ダイムラー・クライスラー社、残業をめぐる裁判で経営協議会に敗れる

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

ドイツの記事一覧

  • 国別労働トピック:2002年10月

フレックスタイムと超過労働(残業)に関する事業所協定の順守をめぐる裁判の第二審で、バーデン・ビュルテンベルグ州労働裁判所は2002年7月11日、ダイムラー・クライスラー社経営協議会とIGメタルが同社を相手に申し立てていた訴えについて、これを受け入れる決定を下した。

訴えの端緒となったのは、1999年10月に同社と経営協議会の間で締結された労働時間の配分に関する事業所協定の順守をめぐる争いであるが、この事業所協定は本社の1万2000人の従業員に適用され、6時から19時の時間帯でフレックスタイムで勤務できることを定めており、これを前提として超過労働との関係で各部署に対して二つのモデルを提供していた。第一のモデルでは、月間所定労働時間を基準に、それをフレックスタイムを利用して30時間超過するか15時間下回ることができるとされ、30時間を超える部分は超過労働としては失効し、所定労働時間を下回る部分は賃金から差し引かれる。第二のモデルでは、年間所定労働時間を基準にして、フレックスタイムの利用で100時間超過するか100時間下回ることが認められ、同様に100時間を越える部分は失効し、所定労働時間を下回る部分は賃金から差し引かれる。

ところで、この事務所協定に関して、所定労働時間を超過する場合に、各部署において上司と従業員が労働時間の調整計画を立てることが積極的に義務づけられているかどうかで(通常超過労働は労働時間口座に積み立てられる)、経営者側と経営協議会の間で争いが生じたが、さらに経営協議会側によると、この労働時間の調整が実際にも機能しておらず、年間75万時間の有効な超過労働が失効しているとして、裁判で争われた。経営協議会側によると、これは無報酬で500人の新規雇用がなされた場合に相当し、会社側はこれによって年間5000万ユーロの出費を免れているという。

これに対して第二審の州労働裁判所は、ダイムラー・クライスラー社は将来シュトゥトガルトの本社で従業員が6時から19時の時間帯でのみ労働することができるようにし、この時間帯の範囲でなされた事業所協定所定の超過労働が賃金不払いで失効することがないように配慮せねばならず、この違反に対しては、会社に対して25万ユーロの制裁金が課され、若しくはそれに代えて取締役に対して秩序罰としての拘留が課されるとの決定を下した。

この決定に対して会社側は、労働時間に関する従業員の自主権が制約されるとして、連邦労働裁判所に抗告するとしているが、使用者団体(南西部金属連盟)は、他の企業でもIGメタルと経営協議会が州労裁の決定の方向で事業所協定を見直すことになると懸念を表明している。

これに対してIGメタルは、州労裁の決定は予防的な効果を及ぼすことになり、また他の企業の経営協議会が類似のケースで議論を提起することを勇気づけることになると、期待を表明している。

また専門筋は、この裁判を契機として、多数の企業で労働組合と経営協議会がフレックスタイムと超過労働に関する事業所協定の見通しを検討する可能性を示唆しており、今回の州労裁の決定は、会社側が連邦労裁への抗告を決定してはいるが、労働側に有利な裁判を行う連邦労裁の傾向からしても、かなりの影響をもつことになると思われる。

2002年10月 ドイツの記事一覧

関連情報