労組、政府との対決姿勢鮮明に

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年10月

9月に開催される労働組合会議(TUC)の年次大会を前に、労働組合がブレア労働党政権との対決姿勢を強めている。最大の争点は公共サービスの民営化問題。昨年の大会は会期中にアメリカで同時多発テロが発生したため早期閉幕し、公共サービスの民営化を推進する政府とこれに猛反発する労組との対決は、今年の大会に持ち越された。ここ数カ月の労組とブレア政権をめぐる動きを追ってみた。

巨大労組で旧共産党系書記長を選出

イギリス第2の労組アミカスは7月18日、ブレア政権に批判的なディレック・シンプソン氏を新書記長に選出した。アミカスは製造業を中心に約120万人の組合員を持ち、民間では最大の労組。これまでの書記長は、右派で労組指導者の中では最もブレア首相に近いケン・ジャクソン氏であったが、今回の選挙で、8万9521票対8万9115票の僅差でシンプソン氏に破れた。同氏は現在、労働党員であるが、元は共産党系の活動家で、ブレア政権にはきわめて批判的である。

選出当初シンプソン氏は「私は長年労働党党員であり、労働党政権を支持する」と同労組の左傾化を懸念する周囲の不安を打ち消す発言をしていたが、7月末の記者会見でのブレア首相の発言で、両者の衝突は決定的となった。

首相は政府批判を強める労組に対して「私が首相であり続けるかぎりイギリスが労使紛争の古き悪しき時代に引きずり戻されることは断じてない」「労組は話を聞いてもらえる権利は有してはいるが、労組が国を治めているわけではない」と牽制すると、『タイムズ』紙でのインタビューでシンプソン書記長は「ブレア氏は民主主義を欠き、経済界に肩入れし、労働者の利益に反する政策を導入している」とし、首相の政治理念を示す「第三の道」を裸の王様の衣服になぞらえて一笑に付した。

書記長はまた、労働党と労働組合会議(TUC)が進めている労使関係の「パートナーシップ」路線を拒否することも明言。公共サービスの民営化については、むしろ鉄道の再国有化を目指すなど、反対派の急先鋒となっている。

今回の選挙結果について大労組全国都市一般労組(GMB)のエドモンド書記長は、労働運動内部で起きている「労働党離れ」の現れであり、決して一時的な現象ではないと論評している。

TUCモンクス書記長は今期限り、副首相は労組を脱退

1993年以来、労組のナショナルセンターである労働組合会議(TUC)の書記長として労働運動をリードしてきたモンクス書記長は、来年の欧州労働組合会議の書記長選に出馬するため、次期TUC書記長選には立たない意向をすでに3月に表明している。

また6月末には、鉄道海運労組(RMT)に17歳で加入した大物のプレスコット副首相が、同氏を含む一部労働党議員への政治献金をRMTがカットしたことを受けて、RMTから脱退した。背景には、鉄道問題をめぐるRMTと政府の意見対立がある。

モンクス書記長は右派のベルルスコーニ伊首相との親近感を強調したブレア首相を「大ばか者」呼ばわりするなど、今年に入って二人の関係は悪化していたものの、書記長は1997年に労働党を18年ぶりに政権に復帰させた立役者の一人で、ブレア首相も同書記長の支えを頼りにしてきただけに、またプレスコット副首相は労組と政府をつなぐパイプ役であっただけに、ブレア政権の組合対策は今後、難しさを増すとの見方が強まっている。

鉄道などでストライキ頻発

今年に入ってストライキが多発している。労働党政権が昨年6月に2期目の政権担当を果たして公共サービスの民営化を最重点課題に掲げると、それに反発する労組との関係が悪化し始めた。労組としては昨年9月のTUC大会で反対決議を行って政府に計画撤回を突きつける予定だったが、大会期間中にアメリカで同時多発テロが発生したため大会は早期閉幕。反対決議は持ち越されて、労組の不満は鬱積していた。

こうしたことを背景に、まず年明け早々の1月3~4日に、南部のサウスウェスト鉄道で鉄道海運労組(RMT)が賃上げ交渉で使用者側と折り合いがつかずストを実施。これを皮切りに、鉄道ストはイギリス全土に波及し、北部アリバ鉄道などでは8月中旬に今年に入って18回目のストを決行した。

イギリスの国鉄は1997年に完全民営化されたが、その後の計画性のない人員削減のせいで不足が生じた運転士については待遇を改善し、他の職種については低賃金のまま放置したため、職場内で極端な賃金格差が生じていた。

ストライキの波は、郵便、空港、バス、警察、鉄鋼などにも拡大している。郵便では、2月に15万人の郵便労働者を組織するCWU(通信労組)が賃上げを求めて6年ぶりに全国スト権を確立した。背景にはやはり民営化問題がある(本誌、2002年6、9月号参照)。

夏になってからは、7月に地方自治体職員約75万人が1970年代以来の大規模ストを実施したほか(前項「自治体労使、大規模ストを経て賃金交渉妥結」参照)、RMTがロンドンの地下鉄で24時間ストを、また鉄鋼部門ではイギリスでは初めての年金制度めぐるストを、それぞれ決行した。さらにロンドン行政区の職員らもストを予定している。

労働党資金難で、労組から緊急献金

選挙管理委員会が8月6日に発表した調査結果によると、労働党が4~6月に受けた献金は約60万ポンドで、総選挙直前で330万ポンドを集めた前年同期の5分の1の水準であった。また現在1000万ポンドの借金を抱えていることを党が認めた。

1997年に政権復帰した際に40万人以上いた党員は現在30万人以下まで減少していることと、公共サービスの民営化を推進している党に反発して労組が献金を削減していることが主な原因だ。

党は「光熱費すら払えない」と労組に泣きついたといわれ、8月に10万ポンドの献金を受けている。

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