経済危機後の貧困者、4年間で3分の1に減少

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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2002年6月6日、国家経済社会開発庁(NESDB)主催で行われた貧困に関するワークショップで、1997年の経済危機から4年経った現在、最貧困層の人口が3分の1に減少したことが明らかとなった。政府の貧困削減政策が、草の根レベルの人々からの要望と視点を考慮に入れたボトムアップ方式であったことが成功の秘訣であったといわれている。

「貧困」の定義

NESDBでは、年間の世帯所得が882バーツ以下の世帯を「貧困世帯」と呼んでいる。一方、世界銀行の貧困の定義は、1人あたりの1日のカロリー摂取量である1978kcalを満たす食品を購入できる額と、必要最低限の財を購入できる額とを足し合わせたものになっている。経済危機後、世銀の貧困ラインに対して、経済学者であるカクワニ博士とクロンケーオ博士がカロリー摂取量を年齢・性別毎に調整し、地方別の食品価格の違いを考慮に入れた貧困ラインを設定し直した。現在ではこの貧困ラインが最も多くの機関で用いられている。

農村部の貧困人口は大幅に減少

NESDBの報告によると、危機後の4年間で、農村部の貧困人口は816万人から300万人に大幅に減少したという(タイの人口は6200万人。農村部に8割が居住する)。

NESDBのチャクラモン氏によると、従来のタイの貧困削減政策は失敗が多かったが、新しい政策のもとでは、貧しい人々から直接話を聞き、貧しくなった原因を探り、その原因に対処する方策が採られたことが成功に繋がったのではないかということだ。

また、農村部への国家予算も支出の22%へと増加しているが、従来はその予算のほとんどが建設関係に充てられていた。しかし新政策では教育や雇用創出などに資金が投入されたことや、貧困世帯が多い1万5249村に的を絞った救済政策が行われた。

貧困者のための42億5000バーツの融資を完了

一方、世界銀行の融資で行ったソーシャル・セーフティネット基金(貧困者を対象にした貸付)もほぼ完了した。融資を担当する社会基金局は、経済危機後の1998年の9月に設立され、合計出1億2000米万ドルの資金が投入された。それらは主に、不況のもとで経済的困難に陥っている人々に無償援助か融資の形で分配された。経済危機から4年が経ち、7602のプログラムが実施され(そのうち完了したのは6000件)42億5000万バーツが分配され、1300万人に恩恵がもたらされ、2002年の10月にこのプログラムは終了する予定となっている。

人々の生活は経済危機以前の水準に回復したのだろうか?

経済危機から人々の暮らしが回復しつつあるとはいえ、危機以前の水準にはまだ達していないというのが多くの人たちの感想のようだ。

NESDBが公表した経済危機以前と以後の人々の生活水準に関する比較によると、健康や教育などは危機以前の水準に回復しているといえるが、雇用問題や所得分配といった項目はいまだに危機以前の水準である(下記表参照)。

2002年から開始した第9次国家経済社会政策では、中心課題を「貧困の削減」、「所得不平等の是正」、「国際競争力の強化」の3点に据えている。人間中心の開発戦略によって、人間の潜在的な可能性を引き出し、経済発展からの恩恵を得られるようにすることが必要とされている。

表 タイの社会福祉指標の変化:経済危機前と危機後
指標(%) 発展水準*
  経済危機前 経済危機 経済危機後 経済危機前 経済危機 経済危機後
項目 1992-96年 1997-98年 1999-2001年 1992-96年 1997-98年 1999-2001年
健康 81.5 84.3 84.1 4.15 4.43 4.41
教育 63.9 69.3 73.8 2.39 2.93 3.38
雇用 79.8 38.4 50.3 3.98 1.28 1.68
所得と所得分配 83 77.6 73.4 4.3 3.76 3.34
環境 74.3 70.9 70.9 3.43 3.09 3.09
総合 77.1 71.3 72.1 3.71 3.13 3.21
*発展水準の5段階:5=90-100%著しく改善した 4=80-89.9%改善した
3=70-79.9% 変化なし 2以下:60%以下悪化した

出所:Bangkok Post 2002年6月20日、元データNESDB

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