「イタリア協定」と政労使間の交渉再開

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年9月

2001年11月の就業および労働市場改革に関する委任立法案848号によって提示されたイタリアの労働市場改革は、2002年7月5日金曜の「イタリア協定─労働に関する取り決め」への署名により、再び前進し始めたように思われる。

この委任立法案848号は、2001年10月に政府が公表した「労働市場に関する白書」を実現するために、政府により提案されたものであった。しかし、労働組合側が、委任立法の主要部分について討議することを拒否したために、労働問題に関する議論は、2002年初期に停滞してしまった。

続く2002年4月16日に組織されたゼネストと複雑な政治状況とが相俟って、この膠着状態は深刻化することになる。つまり、この時期には、地方選挙を間近に控え、また、マルコ・ビアジ教授(上記白書を起草した政府顧問)が犠牲になったテロ行為の影響も色濃く残っていたのである。したがって、期待された交渉開始までの道のりは、いまだ遠いと思われた。政府側は譲歩する姿勢をみせず、労使側もまた、労働者憲章18条を絶対的な先決事項と位置付けていた。

これに対し、地方選挙後の2002年5月31日には、首相官邸で、全使用者団体とCGIL(イタリア労働総同盟)を除くすべての労組が、労働市場改革に関する政労使間の交渉を開始するという同意書に署名をした。6月初めに開始されたこの交渉は、政府および労使によって当初定められた期限(2002年7月31日)まで数週間を残す7月5日に、「イタリア協定」への署名という形で終結したのである。

1.政府および労使間の交渉─租税改革、南部問題、闇労働および労働市場改革

7月5日の合意の重要な点は、昨年11月の委任立法案848号のうち、助成金、社会的緩衝措置、労働者憲章18条および調停制度の見直しを除いた部分(委任立法案848号2条、3条および10条)を早急に可決するよう議会に提案することを、政府が確約した点にある。このように、政府は、848号法案から新たな法案(第2次848号法案)へと関連法規を変更すべきという主張に基づき、848号の内容を一部削除した。第2次848号法案は、これから、議会による審議にかかることになろう。

同意書によって事前に定められたとおり、首相の監督の下、(1)租税改革、(2)南部対策、(3)闇労働対策および(4)労働市場改革の4つの議題について交渉が開始された。CGILは、このうち(1)から(3)の3つの課題についてのみ交渉に参加し、(4)については交渉を拒否した。したがって、広く社会の合意を得るという目標は、部分的にしか達成されなかったのである。

2.協定の内容

7月5日に締結された協定において、政府と労使は、イタリアがヨーロッパの中で就業率が最も低く、地域間の不均衡が最も甚だしい国であることを認めた。こうした状況を克服するため、政府はまず、情報システムの利用により官民を連携させ、次のような現代的かつ効果的な事業を1年以内に実施することを約束した。

  1. 労働者に関する記録の強化や、失業状態の定義付けおよび関連する権利義務の明確化等を通じて、労働の需要と供給のマッチングに関する制度をさらに整備する(この制度については、1997年および1999年から2000年にかけて改革が実施されている)。
  2. 一定の条件の下で、労働市場に関する様々なサービス(需要と供給のマッチング、人材の獲得、職業訓練、復職支援、派遣事業など)を提供することのできる民間事業を普及させる。
  3. 労働事業ネットワークの活性化については、労働社会政策省と地域の社会保障機関および職業サービス機関(公的機関か私的機関は問わない)とを連携させ、当該事業に対する継続的な「助成金」を創設する。

ルクセンブルクの欧州戦略に従い、就業能力を向上させるための政策、すなわち、初期職業訓練や中高年に対する終身職業訓練にも力を入れる。

また、数年かけて徐々に、社会的緩衝措置を労働者が労働市場へ復帰することを支援する方向に変革していくことも、協定の中心的課題である。この目的は、所得保障から職業指導、職業訓練を経て、最終的には自力での就職というサイクルを実現し、非自発的失業状態にある労働者の保護を強化することで、失業の期間を短縮し、労働に積極的に関わっていくことを促進するという点にある。

最近の憲法改正や就業促進措置の改正にあわせて、社会的緩衝措置に関する制度は、以下のことを保障するものでなければならない。

  1. 拠出と給付との対応関係を改善することで、公平性を高める。
  2. 非自発的失業に対する金銭支援の水準を、支給額および支給期間の点で改善する。具体的には、所得保障のための基本的手当は、連続して最大12カ月間支給し、手当額は段階的仕組みをとる(当初6カ月間は報酬の60%、次の3カ月間は40%、その次の3カ月間は30%)。
  3. 非自発的失業者の状態や、職業訓練その他の活動への参加、即座に就業できる可能性を定期的に検査することで、助成金の支給と失業者の権利義務とを厳格に対応させる。これらの要件を満たさない者については、手当の支給を打ち切る。
  4. 特定の困窮状態については、さらに別個に保護制度を設ける。

失業手当を支給する期間は、5年間で最大24カ月まで(南部に関しては30カ月まで)とする。

848号法案を実施するその他の措置としては、労働関係の弾力化および個別化に関するものもある。これは、闇労働の正規化を促進し、期間の定めのない労働関係の形成を疎外している不正や濫用を回避する目的もある。

同様の観点に加え、小規模企業を増加させることをも意図して、労働者憲章18条(不当解雇をした使用者に復職義務を課す規定)に関する適用除外規定が定められた。この規定は、今後3年間、従業員数15人を超える企業には、労働者憲章18条が適用されないことを定めるものである。この場合、今後3年の間に新規に採用された者は、期間の定めのない契約で雇われた場合でも従業員数に含めない。他方で、現在すでに雇われている労働者で従業員として算定しないのは、見習い労働者、復職契約で採用された者、派遣労働者、社会的有用労働者、両親および配偶者に限定する。

協定でとくに重要なのは、労使交渉に関する部分である。進行中の改革を統一的に実現するため、政府および労使は、労働に関する統一法として、労働憲章を制定することを約束した。この準備のため、特別の専門委員会が設置される予定である。

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