テキスタイル産業に国際労働基準の適用を

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年8月

労働社会福祉省は、経済のグローバル化とWTOの問題などを考慮して、タイの企業、特にテキスタイル部門の企業に国際労働基準SA8000(Social Accountability 8000)を取得するよう呼びかけている。

SA8000とは?

SA8000とは、アメリカCEPAA(Council Economic Priorities Accreditation Agency:労組、人権擁護団体、児童労働撲滅組織、研究者、経営者、コンサルタントなどで構成される団体)の定める、労働者の権利保護に関する世界基準の企業行動規範で、ILO(国際労働機関)や国連の人権条約などにも準拠している。SA8000はCEPAAが認定機関となって、アジアでも審査員を養成している。

具体的には、児童労働、強制労働、職場での差別の解決や、労働時間や職場での安全と健康に関する問題、組織化の自由といった労働者の権利を保護するためのいくつかの項目を設け、それらの基準を満たしているかどうかを査定し、承認を行う。

SA8000は労働版ISOとも呼ばれ、発展途上国で工場を持つ米国の衣料・玩具・食品メーカーなどの間で取得されている。

SA8000を取得するメリットとは?

タイを含む発展途上国で作られた製品を先進国へ輸出する際には、その製品が労働搾取的な工程で作られたのではないことを証明することが必要になってくる。特にアメリカやEUなど、人権擁護団体の力が強い国々への輸出には、SA8000を取得することによってそれを証明することができる。

今後、国際貿易のグローバル化の進展に伴い、発展途上国は安い価格だけを切り札とする市場競争は難しく。品質の向上とともに、生産に関わる労働者の権利を補償した「公平な」価格を求める時代に変化するといわれる。

タイの場合、実際にSA8000を導入している企業はアパレル・アベニュー社1社に留まっていることからも、タイの産業界における国際労働基準に関する関心の低さが表れている。500人の従業員を抱える同社は、2000年にSA8000を獲得し、現在製品の100%を国際的なブランド商品として輸出している。同社のカーチャイ社長は、「SA8000を導入する前は、労働時間の削減や、労働者の権利を保護することによって、収益が下がるのではないかと予想していたが、実際には1人あたりの労働生産性が劇的に向上した」と語っている。同社長は「労働者の尊厳を守ることも企業が成功する1つの要因なのでは」と付け加えた。

労働福祉省ラダワン副大臣は、SA8000を採用し、労働者の権利を保護することによって労使関係が円滑になり、その結果組織の結束力が強化され、激しい価格や品質競争に対抗することができる、と述べている。同省は現在SA8000導入を促進するために、企業への経済的支援を行っているということだ。

しかし、SA8000では農業部門・鉱業部門・在宅勤務者(内職者)は対象外で、次のSA8001の段階で対象になる可能性があるといわれている。

テキスタイル産業での労組の動き

テキスタイル・縫製・皮革労組連盟は4月22日、政府官邸前でデモ活動を行った。同連盟は、最低賃金を全国で日給200バーツまで上げること(現在はバンコクで165バーツ、その他地方により168~133バーツ)、失業者を対象とした社会保険制度の導入、就業年齢に関する国際労働条約第138号の批准などを求めて行進を行った。

また4月29日には、ワリラック・ミーポカ氏に率いられたCPテキスタイル労組組合員およそ100名がナコンラチャシマ県から上京し、株式会社CP産業に対して4つの要求を提出した。その内容は、経営側は1年に2足の靴を各従業員に支給すること、飲料水と住居(寮)の質改善、労組の活動への介入を止めること、先に不公平な解雇をされた組合員の再雇用、労災で死亡した従業員の家族への支援などで、最終的に経営側と上記の項目について合意に達した。

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