民間労働者の年間保険料率が上がる

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年8月

民間労働者社会保障制度(SSS)の年金基金は、現在の財政情況が継続すると、2012年までになくなる。このため、コラゾン・デ・ラ・パズSSS理事長は、加入者に対し、負担と給付の見直しに対する理解を求めた。

SSSの制度内容

SSSは、民間労働者に対して、年金給付、医療費の給付、障害給付、死亡給付などを実施し、民間部門で働く2300万人が加入している。現行の年金の保険料率は8.4%(使用者側の負担が5.04%、労働者本人負担が3.36%)である。1990年、年金基金は、ほぼ永久に回転すると予想されていた。低い保険料率で運営でき原因は、人口増加率が高く、若年層の人口が多かったためである。

SSSの説明によると、年金の保険料率は、公務員社会保険制度(GSIS)の21%より低く、また、他のアジア諸国よりも低い。

財政情況の変化

しかし、1990年代末より、財政情況が変化した。アジア金融危機の影響を受け、企業収益が悪化し、保険料徴収額が減少し、加えて、老齢人口が増加し始めた。このため、SSSの基金増加率は、計画を下回り始めた。1995年には、制度が一部改正され、基金の寿命は、2050年まで延長された。

1999年の年金給付額は288億ペソで、保険料徴収額の271億ペソを上回った。この結果、積立金の寿命は、2015年と下方修正された。2000年、保険料徴収額は303億ペソで、年金支給額は339億ペソだった。2001年は、収支差は、さらに拡大し、保険料徴収額は314億ペソで、年金支給額は390億ペソだった。この結果、2001年、年金基金は、1810億ペソにまで減少し、さらに、2002年第1四半期、1650億ペソに減少した。この情況が続くと、2012年までに、基金を使い果たす見込みとなった。

このため、SSSは、年金の保険料率を現行の8.4%から22%に上げ、受給者の年金額を引き下げるよう計画した。これにより基金の寿命は、65年延長できる見込みである。

デ・ラ・パズSSS理事長は、アロヨ大統領に、SSSの財政情況を説明し、保険料の徴収を増額することを認めるよう申請した。これは、保険料率改定において、大統領の署名が必要であるためである。

アロヨ大統領は、SSSの要求に基本的に同意し、労使の主な団体に、保険料率の改定の理由を説明し理解が得られるよう説得する指示を出した。これを受け、SSSは、主な労使の団体に対し保険料の増額に賛成するよう説得し始めた。

SSSは、保険料率を一度に22%まで上げることは、無理だと認識しており、保険料率の改定は、段階的に実施する予定である。また、経営不振を理由に、保険料を滞納している企業に対し、法的手段を含む厳しい態度で、徴収に乗り出すことを明らかにした。

労組の反応

一部の労組は、今回の保険料率の改定に対して反対を表明し、SSSは、収支差を保険料率の改定により改善するのではなく、一般会計から財政援助により実施すべきだと主張している。その理由として、現在のSSSの収益の悪化は、前政権末期の投資の失敗によるものであり、乱脈経営がもたらした損失を労働者の負担に頼るのは不当だと訴えている。

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