多くの労働者が時間外手当を求めて訴訟中

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年8月

小売業マネージャー、銀行員、エンジニアなど様々なホワイトカラー労働者が、実際には管理的な仕事をほとんどしていないにもかかわらず、管理職として雇用されていたため、時間外手当を奪われたと提訴するケースが増えている。また、連邦法では、専門職に分類された労働者も時間外手当を受け取ることができないので、専門職とされた労働者が裁判を起こすこともある。原告の弁護士によれば、多くの企業は労働コストを節約するため、労働者を管理職や専門職に分類している。例えば、レストランのチェーン店でウェイターを管理職に分類している例もある。このほか連邦法の公正労働基準法の規定で時間外手当が支払われない労働者には、養蜂労働者、州を越えて移動するトラック運転手、遊園地の季節労働者などがある。

現在、何万人もの労働者が、時間外手当について申立を行っている。2001年には、賃金や労働時間について規定している公正労働基準法に基づき集団で提訴した件数は、雇用における差別について起こされた集団代表訴訟の件数を上回った。多額の和解金が支払われた例は、2001年だけをとってみてもSBCコミュニケーションのSBCパシフィック・ベル社(3500万ドル)、コカ・コーラ・ボトリング・オブ・ロサンゼルス(2020万ドル)、アメリカ銀行(2200万ドル)などがある。

2001年7月にはファーマーズ保険グループが2400人の保険支払い請求担当労働者に時間外手当を支払っていなかったとして、カリフォルニア州オークランドの州裁の陪審が9000万ドルの支払いを命じる評決を下し、同社が上訴中である。同社は、オレゴン州の連邦裁判所でも全国の保険支払い請求担当労働者が起こした裁判で争っている。同社は、これらの労働者を管理職に分類しているが、原告の主張では、保険支払い請求額の調整にあたり、労働者に裁量の余地が少なく、指示通りに働いているため、実質的に管理職とは言えない。

労働者の分類方法以外では、労働時間以外での労働を要求されたという申立が多い。ウォルマート社は28州で時間外労働に関する裁判で争っているが、その典型例はニューヨーク州裁での訴訟で、閉店時に同社が原告労働者にタイムカードを押させ、記録上労働を終えたことにした後で、継続して仕事を続けさせているというものである。なお、同社スポークスマンのウィリアム・ウエルツ氏は、時間給労働者に時間外労働を強要していないとして原告の主張を否定している。

ミノルタ社の子会社ミノルタ・ビジネス・ソルーションズに対する訴訟では、コピー機技術者が、5時以降や昼食時間中に行った仕事、さらに週末に仕事関連用品を購入するための時間に対して賃金が支払われていないと訴えている。これに対し同社代表者は、係争中の訴訟に関するコメントを控えているが、労働時間に対して賃金を支払うことが同社の政策であると述べている。

実質的権限のない管理職の多くは、企業が、時間外手当を支払わずに多くの仕事をさせることができる従業員として雇用してきた。すでに大企業は、提訴されないように報酬体系を変えつつあり、実質的な権限に乏しかった管理職の権限を拡大したり、時間外手当が支給される従業員として再分類しなおすなどの対応をとっている。すでに時間外手当に関する訴訟を起こされた企業は、タコベル社(メキシコ料理ファースト・フード)、U-ホール社(引っ越し用トラックのレンタル)、ペプシコーラ社、ボーダーズ書店、ブリヂストン・ファイアストン社など多岐にわたる。

多くの会社が提訴されている理由の一つは、連邦法の規定が、工場労働者を念頭に作られ、今日のホワイトカラーの職務内容に適用するには時代遅れになっていることである。連邦法は、時間外手当が適用されないのは、2人以上の部下を管理している管理職である場合、または、会社の重要な政策について決定する権限を持っている場合、あるいは、採用と解雇について決定権がある場合としている。しかし、スリム化した今日の組織では、管理職自身が、コンピュータを用いて事務処理を行っており、純粋に管理的な仕事は減少傾向にある。そのため、連邦法の規定によると、本来、管理職に分類されるべきでない人々が、現在、管理職として雇用されている。

例えば、U-ホール社を相手取った訴訟では、カリフォルニア州最高裁が2000年1月、同社のマネージャーが50%以上の労働時間を時間給従業員と同じ仕事に費やしていたと認め、U-ホール社が敗訴した。管理職の時間外手当に関する訴訟は、全米で起こされているが、大部分がカリフォルニア州で提訴している。その理由は、カリフォルニア州の労働法が労働者に有利で、例えば、U-ホール社のケースでは、管理職とみなされるための条件として、連邦法は、管理的な職務が主要な職務になっているという曖昧な基準を示しているのに対し、カリフォルニア州労働法は、50%以上の時間を管理的職務にあてていることを使用者が文書で立証することを要求している。また、U-ホール社やレストランのようなチェーン店では、主要な意思決定が各店舗でなく本社でなされるため、各店舗の管理職が訴訟を起こした場合、会社側が訴訟に敗れる確率が高くなると考えられている。

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