UAW新会長にゲッテルフィンガー氏

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年8月

全米自動車労組(UAW)は2002年6月5日、ロン・ゲッテルフィンガー副会長(57)を会長に選出した。95年以来、会長を務めていたスティーブン・ヨーキチ会長(66)は同日付で退任した。  ゲッテルフィンガー氏は1964年に修理工としてフォード社に入社後、78年にフォード社の工場における組合委員長になった。以来、UAWのローカル、地域、全国レベルのリーダーとして24年間活躍している。UAWは87年に同氏を全国規模の交渉委員に任命、92年には同氏をUAW第3地域(ケンタッキー州、インディアナ州)の本部長に任命している。98年にUAW副会長に選出された後、99年の協約改定交渉ではビッグスリーの先頭を切ってフォード社から大幅な賃上げを勝ち取り、UAWはこれを受けてGM、ダイムラー・クライスラー社などと好条件で協約合意した。 ゲッテルフィンガー氏は、フォード社から企業分割される予定であった同社の部品製造部門(2000年半ばにビステオン社として分離)で働く従業員を引き続きフォード社の社員として雇用することを要求していたが、この要求を実現し、ビステオン社に移った従業員は現在もフォード社社員として好条件の給料や給付を受け取っている。

ゲッテルフィンガー氏は鉄の意志を持つ交渉者として知られるほか、改革者としても知られている。同氏が79年に所属していたフォード社工場は、業績悪化のためシフトを減らし、存亡の危機に陥っていた。自動車業界は、当時、敵対的な労使関係で有名だったが、ゲッテルフィンガー氏はフォード社の新工場長と大規模な改革を計画し、UAWとフォード社の指導者を招いて品質管理のためのセミナーを開いた。こうして会社側も労働者の意見に耳を傾けるようになり、ゲッテルフィンガー氏は組合員を相手に多くの会合を開いて品質管理改善を達成するための方法を教えた。その結果、同工場の品質が大幅に向上、フォード社は同工場に新たにトラック製造ラインを作るまでになり、組合員は、新車種レンジャーのデザインについて多くの提案を寄せた。こうした取り組みで、同工場は間もなくフォード社の中でも一番品質管理の行き届いている工場と評価されるようになる。このエピソードから分かるように、ゲッテルフィンガー氏は、合衆国では非常に早い時期から品質管理の重要性に着目し、労使双方にとって利益がある場合には、労使協調するという現実感覚を併せ持った指導者でもある。

UAWは、ヨーキチ時代に好条件の賃上げを勝ち取ったが、組合員数の減少、外資系自動車会社における組織化の失敗、そして破産や統合による自動車部品業の縮小など、多くの問題に直面している。30年前に100万人以上を数えたUAW組合員数は、現在では70万人近くにまで縮小している。ヨーキチ前会長は、自動車組立工場の組織化が最優先課題であると96年に宣言した。しかし、外資系自動車会社が、すでに組織化されていた工場を買収、統合して工場内の労組を受け継いだケースを除くと、外資系自動車会社傘下の自動車組立工場を全く組織化できていない。最近では、テネシー州日産スマーナ工場では2対1の比率で反対票が賛成票を上回り、2001年10月3日に従業員が組織化を否決した。スマーナ工場では、ノー・レイオフ(一時解雇)政策があり、雇用保障が強く現状に満足していることなどが影響していると考えられる。

現在、代表選挙を担当する全国労働関係局(NLRB)がブッシュ政権の影響下にあり、製造業が縮小しているため、UAWは組織化活動を強化する必要がある。ゲッテルフィンガー会長は就任スピーチで、大金を使って組織化活動を妨害する使用者に対して黙っている訳にはいかない、組織化を進め、労働者の権利を守るための闘いをさらに強めていくとの決意を表明したほか、高齢者の権利擁護、環境問題などの従来からのUAWの社会的な活動の重要性を指摘した。メディア嫌いで知られる同氏は、効果的なスピーチをし、やや疑問視されていた政治的手腕の片鱗をうかがわせた。
 自動車業界との間に結ばれた現協約は、空前の好業績を上げていた自動車業界と、3年ではなく4年の協約となっており、労働者にとって有利な協約であった。これに対し、今ではビッグスリーのマーケットシェアは低下しており、2003年に予定される労使交渉では、雇用保障が争点になると予想されている。とりわけフォード社のリストラ策の中心である5工場閉鎖の問題で雇用維持を守れるかどうかが焦点になる。

UAWの組織拡大のためには、非工業部門の労働者の組織化拡大を進める必要がある。最近では、デトロイトのカジノ労働者、カリフォルニア大学の教育助手(大学院生)、トレドの児童擁護労働者などがUAWに加入している。教育助手が所属しているUAWの技術職、事務職、専門職部(TOP)は約10万人の組合員が所属しているが、98年以来、TOP所属者は3万5000人増加し、UAWで最も成長著しい部門になっている。

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