論議を呼んだCEOの高額年金

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

スウェーデンの記事一覧

  • 国別労働トピック:2002年6月

2002年2月の労働生活に関わる主な話題は、企業の幹部に支払われる年金はどの位の額が妥当かについてであった。こうした論議が起きたのは、スウェーデンとスイスの企業であるABB社の元会長バーネビック氏が1996年に55才で最高経営責任者(CEO)の職を退いた際に1億4800万スイスフランが一時払いで支払われ、しかも氏はチューリッヒからロンドンに引っ越したため事実上非課税になっていたことが明るみに出たためである。

バーネビック氏のお陰でその後継者であるリンダール氏は、CEOをたった4年務めた後2000年に退職する際に8500万スイスフランを受け取った。バーネビック氏が多くの人から一層非難されるのは、役員会の他の役員に相談なくこのような気前の良い合意書にサインしてしまったためである。

このような金額の退職金はもちろん特異と考えられるだろうが、かなりの政治的意味と労使関係上の意味を持ちうる激しい論議をスウェーデン国内に巻き起こした。社会民主党政権は世論調査の結果が政府寄りなので喜んでいる。労働組合は怒りを露にして組合員への補償を口にしている。小規模企業の経営者の多くは、このような出来事がおきては、企業経営の改善に役立つ政策が見送られかねないと怒っている。

主に中小企業から成る4万8000社の声を代弁するスウェーデン企業連盟は素早く反応し、このような高額の退職金を否認した。同連盟の理事会は2002年2月22日、CEOに対する報酬と年金に関する原則を満場一致で採択した。この原則を要約すると以下のようになる。

  • CEOに対する給与・年金の条件及びその他の報酬は役員会全員によって決定し、年次決算書に公表すること
  • CEOに対する報酬の基本は能力と任務の大きさに基づく固定給とすること
  • CEOの給与には、当該企業が明らかに利益をあげた時にCEOが追加的報酬を得られる業績関連部分があるのが望ましいが、業績が悪い時には決してボーナスがあってはならない
  • CEOが離職あるいは退職してからではなく経営者として現役であるうちに給与の大部分が支払われるようすること
  • CEOは、当人の実績が不十分である時には職を解かれるものとする。CEOは自発的に退職する場合には追加的報酬を受け取ってはならない
  • CEOの退職金は当該企業がその全額を把握すること。退職金が業績に関連する時には、将来の年金額に上限をもうけること

この「バーネビック事件」によってCEOたちの所得全般にも注目が集まった。大手上場会社のCEOたちの給与は、過去10年間に労働者賃金の10倍の速度で上昇してきた。1990年から2000年の間に大手10社のCEOたちの給与は平均217万3600クローネから1393万0000クローネへと6.1倍になったとスウェーデン最大の朝刊紙Dagens Nyheterは報道している。この10社とはABB、アストラ(ゼネカ)、エリクソン、インベスター、サンドビック、SCA、スカンディア、スカンスカ、SKF、ボルボの各社である。一方、労働者賃金は同じ10年間に1時間当たり72クローネ(年額15万7400クローネ)から1時間当たり112クローネ(年額24万3000クローネ)へと54%上昇した。

2002年6月 スウェーデンの記事一覧

関連情報