スペインにおける失業保障制度の手厚さ度

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年6月

失業率の高さと手厚い失業保障制度の関係は、しばしば指摘されてきたことである。スペインはごく最近まで先進国の中でも最も失業率が高い国であったが、やはり失業者数と失業手当の間に関係があるとするこの理論が当てはまるようである。しかし失業手当の手厚さやカバー範囲は、他国と比較して必ずしも大きい方ではない。

スペインにおける失業保障の手厚さは比較的小さい方である。その額は、一定の限度内で失業者が職を失う前の賃金に応じて定められるが、手当支給の最初の6カ月間は賃金の70%、2年以上の期間働いていたため受給の権利があれば、最大受給期間の24カ月に達するまで賃金の60%が支給される。なおその際、標準をいくらに設定するかで限度が決まってくるが、これは最低で506ユーロ、最高で2500ユーロである。これらの限度を越えない労働者の場合、賃金そのものが失業手当額を算出する際の標準となる。

さらに、失業手当額そのものにも上限と下限がある。下限は職業間最低賃金の100%で、2002年の額は労働者に扶養対象となる子供がある場合は442ユーロ、扶養家族がない場合はその70%(332 ユーロ)となっている。上限の方は、扶養家族がない場合は職業間最低賃金の170%(752 ユーロ)、子供が1人の場合は190%(840ユーロ)、子供が2人以上いる場合は220%(973ユーロ)である。以上とは別に、年2回支払いが義務づけられている特別手当相当分が、支給期間を通じ等分して支払われる。

以上のような限度があるため、特に高賃金層にとっては賃金に対する受給可能な失業手当額の割合が非常に低く抑えられることになる。したがって、失業期間中の最初の6カ月に手当額が実際に賃金の70%に達するのは、賃金が1500ユーロ未満の労働者に限られ、またこれも扶養家族の有無など個々の条件によって左右される。逆に賃金が5000ユーロを越える労働者の場合、失業手当は20%にも満たない。

このように、賃金に対する失業手当の割合は、賃金が高くなるほど低くなる。賃金アンケートによると、2001年を通じて月額1165ユーロ(特別手当を除く)の賃金を受け取った平均的な賃金労働者の場合、賃金に対する失業手当の割合は子供がない場合で64.5%、子供がある場合で70%であり、手当受給7カ月目からはいずれの場合も60%となっている。

スペインにおける賃金に対する失業手当の割合は欧州連合諸国の間でも最も低いうちに入り、また失業期間が長くなるほどその差は大きくなる。扶養家族のある労働者が失業4年目に達した場合、欧州平均では賃金の4分の3が受給できるのに対し、スペインでは半分以下になる。これは失業保障制度に対する負担金支払いに基づく失業手当を受けられる期間を過ぎてしまったため、負担金支払いとは独立して支給される失業保険しか受け取れなくなるからである。

2001年の失業者1人当たりの平均手当月額は、当該の労働者名義での社会保障制度への負担金支払い分も含め、543.9ユーロ(特別手当分を除く)である。失業者の年齢が高くなるほど、失業手当額も高くなるが、これは賃金の年功序列構造を反映する当然の結果である。16才~19才の失業者が受け取る手当額は458.9ユーロ、55才以上の失業者の場合は621.8ユーロとなっている。

性別で見ると、男性労働者の失業手当が月額597.80ユーロ、女性では479.50ユーロと男性の方が女性よりも25%多いが、これは男女間の賃金格差をそのまま反映している。また過去5年間で失業手当額に見られる男女格差は更に開く傾向を見せている。

ユーロ換算して比較すると、失業手当受給資格のある失業者が受け取る手当月額平均は、1999年の552.30ユーロから現在の541.40ユーロへと減少している。1999年までは年平均1.4%で増えていた。

しかし、すべての失業者が手当受給の条件を揃えているわけではない。受給資格所有者の数が最も多かったのは1993年で、登録失業者300万人のうちほぼ200万人のスペイン人が何らかの形の手当を受給していた。その後、2度にわたって受給条件を厳しくする改正を経て、2年後には手当受給者数は3分の1近くも減少した。また1995年以降は失業者数そのものが減り始め、これによって手当受給者数の減少も更に進んだ。

社会保障制度への負担金支払いに基づいて支給される失業手当と、負担金支払いとは関係なく支給される失業補助を比較すると、後者が制度かされたわずか5年後の1987年以来、これら2つの動向には驚くほどの平行関係が認められる。2001年末の失業手当受給者数は40万人強、失業補助受給者数はほぼ60万人であったが、後者のうち40%近くは南部アンダルシア州及びエストレマドゥラ州のみに限られた農業季節労働者補助の受給者となっている。過去10年間に農業部門における賃金労働者数が激減している中で、農業季節労働者補助の受給者数はほとんど変動していない。

労働力調査によって得られたデータの処理からは、スペインにおける失業保障制度の2つの問題点が浮かび上がってくる。まず、失業手当や失業補助を受け取っている労働者の多くが非労働力人口の分類に入っており、つまりこれらの労働者は「労働する意欲がある」という条件を満たさぬまま手当を詐取していることになる。次に、手当受給のためには「労働していない」ことが条件であるが、こちらも守っていない受給者が多数おり、その数が受給者全体の30%に達することさえあった。

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