マドリッド州路線バスのストと仲裁裁定

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年6月

マドリッド州は人口280万人余の首都マドリッド市を中心に多数の衛星都市が集まる人口密集地である。スペインでは鉄道・地下鉄・バス等の公共交通機関がおしなべて不足しており、マドリッド近郊でも自家用車以外にはバスしかないという町すらある。そのマドリッド州で4月8日?15日、首都マドリッドと近隣諸都市を結ぶ路線バスがストを決行、連日100万人近くの市民に影響が出る大混乱となった。

ストの原因は、同州内で進められていた都市間路線バス部門での協約交渉の難航である。すでに3月にも断続的に計4日間のストが行われ、月末の復活祭の休暇を利用した旅行客らに影響が出ていた。交渉が妥結しないまま労働者側は4月8日朝から無期限ストに入ったが、その際に法律上義務づけられている最低限サービスの実施を拒否したため、バスが文字通り1台も運行せず完全な麻痺状態に陥ってしまったことに問題がある。

都市間路線バスは民間バス会社各社とマドリッド州政府による連合方式をとっているが、8日には州政府運輸長官が間に入り、会社側に最低限サービスを遵守しない労働者に対する罰則を撤回させることでスト中止を求める提案を行ったが、労働者側がこれを拒否したため、スト終結の見通しが全くなくなってしまった。この間利用客への影響は深刻化する一方で、通勤の足を奪われた建設現場労働者が解雇されたり、数カ月も前から予約していた病院の診察を逃してしまった老婦人が出たり、しまいにはストを行っていない通学バスへの投石というピケッティング行為で乗っていた女児が頭に怪我をする事故までおきた。

労使交渉による解決が絶望的になる中、経済社会審議会(中央政府の諮問機関)のモンタルボ会長がマドリッド州政府の依頼を受けて仲裁を行い、15日には仲裁裁定が発表された。それによると、賃金上昇額は労働者側の要求を30%下回る月額48ユーロ、また2005年まで消費者物価上昇率+0.7ポイントの上昇を認める、労働時間は労働者側の要求(週35時間労働)を受け容れず、2005年まで毎年1日の休暇増となっている。労使紛争における仲裁裁定は法律と同じ拘束力を有し、労使ともこれに従わなければならない。今回の裁定の有効期限は4年間で、裁定に言及されていない点に関しては現在の労働協約がそのまま延長されることになる。

労働者側は裁定の内容をほぼ満足のゆくものとしているが、特に会社側が裁定の勧告に従って最低限サービスを拒否した労働者への罰則の撤回を決定したことが大きかった。一方、会社側は裁定を「労働者側に有利すぎる」、「会社にとって高くつく」と評価している。

今回のストは、労使交渉による協約改定が行われず、仲裁という形をとった点で注目される。同時に、労使紛争からストに発展した場合の最低限サービスのあり方についても考えさせられるものであった。労働者側は会社側が設定した最低限サービスがあまりにも多すぎるとの理由でこれを拒否したが、その影響を受けるのは利用者にほかならない。そのため、仲裁裁定においても、将来に向けて労使代表による委員会を設置し最低限サービスについて検討するとの一文が盛り込まれている。

一方、ストの直接の被害を被った利用客であるが、消費者団体等も5月分の定期券料を無料にするなどの措置をとるよう求めている。州政府は18日、定期券利用者に対してストが行われた合計12日分の料金を払い戻すことを発表した。

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