ハンガリー/労働時間と所定労働(最新の全国労働調査による結果)

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年6月

中央統計局(Central Statistical Office)(ハンガリー語の略称はKSH)は全国労働力調査(National Labour Force Survey(NLFS))を毎月行っている。その方法は、Eurostat(欧州統計局)が欧州労働力調査を行っている方法と同様である。しかし、四半期ごとの結果しか公表されず、NLFSに比較して発表が遅い。最近、労働時間および所定労働に関する最新調査データが発表された。国立統計局は、初めて労働組合の役割についていわゆる「特別モジュール」をNFLSに採用した。本報告では、労働時間、労働の組織および勤務体制に関する結果を提示したい。次回の報告(即ち2002年3月の報告)で労働組合の役割に関する結果の評価を行う予定である(注1)。(これに関連するが、中央統計局が初めてその全国労働力調査において労働組合の役割に関する質問を載せたことは特記する必要がある。)

労働時間の形態 -労働力のより柔軟な活用をめざす変化

NLFSで集められたデータには、雇用と労働時間の関係についての多くの情報がある。この調査に用いた中心的な質問は、実行されている労働時間、パートタイム雇用の様々な形態とその将来的な利用についての意見についてであった。労働時間の問題と雇用の形態・柔軟性について特に注目することがなぜ重要なのかという疑問があるかもしれない。この調査の意義を理解し説明する論拠は下記の通りである。

a) 資本使用の効率を高める必要性の増大

b) コスト節減の必要

c) 採用する技術の特質

d) 社会的ニーズの変化

e) 消費および購買の習慣の変化

ハンガリーにおける、過去最も支配的であった労働時間のパターンが明らかに変化した背後には、上記の労働界における変化要因がある。実際、「単一シフトによる日勤」から、多様な勤務形態へ向けて変化が起きている。

ハンガリーの経済および社会におけるこの10年間の変化からの目に見える一つの結果は、かなりの数の使用者が労働時間を恒久的に複数シフト制にしていることである。ほぼ100万人に近い人々が複数シフト制で働いている。詳細は表1を参照されたい。

様々な労働形態の分布を調べると、伝統的な「単一シフトによる日勤」は教育部門で最も一般的と言える。表1には、この部門以外で単一シフトが一般的である部門についてのデータが示されていないが、NLFS調査の結果を用いれば単一シフト労働時間は下記のような部門でも特徴的であると言える。

  • 金融サービス(85.6%)
  • 建設業(83.6%)(注2)
  • 行政、国防、社会保障(80.0%)

2交替制で週末は働かないという勤務体制は製造業の部門で最も一般的で、ほとんど15パーセント近い人々(すなわち125,000人)がこの形で雇用されていた。これに関して特記に値することは、「2交替制」勤務は女子が従業員の多数を占める部門においてさらに一般化しており、17.4パーセントの女子が2交替制で働いている。3交替制で雇用されている人の割合も製造業部門が最も高く、7.4パーセントである。しかし週末労働は-予想される通り-ケータリング/ホテル部門が最も高く、この労働時間体制のもとで400,000人近い人々が働いている。またこの形の労働時間は「ヘルスケアおよびソーシャルケア(27.3%)」、「輸送、郵便、電気通信、貯蔵」などの部門の従業員の中でもかなりの割合を占めている。

労働市場で最も底辺にあるグループ、即ち学歴が全国平均以下、および年齢15歳から19歳までのグループは、国際的に見られる傾向と同様に、非標準的労働時間で働いている割合が大きい。即ち彼らは複数交替制での週末労働、あるいは週末を除いた2交替制労働をしている。ハンガリーの主要な雇用グループを比較すると、標準的な、つまり正常な労働時間(単一シフトによる日勤)で働いているのは、機械オペレーターや部品組立工として働いているブルーカラー労働者の半数以下(48.5%)であり、ホワイトカラー労働者では大多数(86%)がこの形態の労働時間で働いている。

様々な形態の労働時間体制の他に、使用者が人材と技能をより柔軟に活用する伝統的な方法として「時間外労働」の利用がある。仕事量が最大に達した時には、使用者は一般従業員に時間外労働を義務付けることがある。この方法ならば使用者は新しい従業員を雇用する必要がなく、新規採用に伴う法的な対応にも直面しないですむ。NLFS調査ではこれに関して次の2つのグループが識別された。第一は相当な時間外労働を行っている従業員のグループで第二は時間外労働が全くない従業員のグループである。第一のグループでは男子従業員が10.2パーセントの割合、女子従業員が6.1パーセントである(注3)

経済部門別の時間外労働の割合を比較すると、高い割合を示しているのは「建設業」、「ケータリング・ホテル」、「サービス」の部門であった。これらの部門における時間外労働の割合が全国平均よりも高い理由は、「仕事の季節的性質」「周期的に仕事量に増減がある」などの要素にあると考えるべきである。しかしヘルスケア部門の場合はほとんど10分の1に近い従業員が時間外労働を行っている。これは極端な低賃金に起因する恒常的な人員不足が原因であると考えるべきである。時間外労働の割合が最も低いのは鉱業と行政部門であった。

時間外労働を職種別に比較すると、管理職グループが最も高い割合(11.5%、これに比べて全国平均は8.3パーセント)を示した。またこのグループは無給の時間外労働の割合も最高であった(6.3時間)。このグループに次いで時間外労働の割合が高かったのは準熟練組立工として働いているブルーカラー労働者のグループであった。時間外労働の割合が最も低かったのはホワイトカラー従業員のグループであった。

勤務組織と労働時間の活用 -矛盾する経験

中・東欧において、有名な経営コンサルティング会社であるCzipin and Proudfoot Consulting Co. Ltd. がハンガリーの企業の労働時間利用について最新報告を発表した。この報告によれば、ハンガリーの会社において労働時間の47パーセントが利用されていない。これは国全体で労働日数にして106日分の損失に相当する。この指標は同じような国際的なデータとそれほどかけ離れてはいないが、悪い面は以下の点である。36パーセントの会社の生産性が、調査対象会社の予想どおりに変化しなかったか、あるいは低下しなかった。国際的な生産性調査にはハンガリーを含む9カ国が参加した。その国際調査では大企業の管理職2700人に対して調査が行われた。このコンサルティング会社の報告によれば、ハンガリーにおいて生産性向上を妨げている中心的な要因は(他のすべての国々同様)企画と業務管理の弱さである。調査対象となった諸企業のこの弱点により、労働時間利用が年間42日分喪失する結果が出ている。ハンガリーの構造的な弱点が、生産性喪失の60パーセント以上の原因となっている。最後にCzipin and Proudfoot Consulting Co. Ltd.の常務取締役は、次のようなコメントを付け加えている。「主な問題は従業員の行動を組織的に監督しない経営陣にあり、また働く上でのモラル(moral)にも問題がある。」

後者の発言に関連して「国民健康保険基金」の最新統計について述べなければならない。この統計によれば、最近10年間、有給病気休暇日数が持続的に減少している。

ハンガリーの従業員のこのような行動は、たとえ病気であっても(例えば熱がある場合でも)働きたいという彼らの強い気持ちを明確に現している。とりわけこの状況には、従業員が有給病気休暇を頻繁にとれば解雇されるのではないかと恐れていることと、病気休暇の規則がより厳格に変わってきていることが反映されている。病気休暇の規定は2001年にそれ以前よりも厳しくなり、就業日数が最低180日ある従業員のみが前年の60パーセントもしくは70パーセントの病気休暇をあたえられることになった。就業日数がこれに満たない者は病気休暇中の賃金が最低賃金に準じて計算される(注4)

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