農村部での所得向上、雇用促進政策

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年5月

全人口の約7割が農村に居住し、就労人口の約半数が農業分野に従事するタイでは、農村の雇用創出及び農業の所得向上への政策が、国全体の経済政策に重要な意味を持っている。就任1年を迎えたタクシン政権の支持率は66%と高く、今後取り組むべき課題の1位には雇用安定(69%)が挙げられ、ますます農村の雇用創出にかける期待が大きくなっている。

農業の所得向上政策

2002年2月28日、タクシン首相、チュチープ農業相とその他の大臣らが集まり、2002年から2006年までの第9次国民社会開発計画での農業政策について会談した。そこでは、農業生産と農家の所得向上に対する具体的な政策が話し合われ、最終的に3月6日には、チュチープ農業相によって農家の収入増加のための7項目が発表された。この政策によって農家の年間所得は平均2%、第1次産業のGDPも1.9%上昇すると見込んでいる。

7項目とは、1農産物の品質向上、品種改良による生産拡大2灌漑施設の充実と土地配分の均等化3輸出向け農産物の生産所〔農業経済ゾーン〕の設置41村1品運動による農産物付加価値の向上5新商品の開発による雇用創出6衛生・ポストハーベスト問題に対する研究促進と消費者のニーズにあった商品開発7農業インフラ整備-となっている。

農民の債務返済繰り延べ政策も、債務の元本と利子の支払いを3年間延期させることだけでは解決にはならない。そのため、政府は債務繰り延べに応募した農民に対し、コストと利潤の概念を把握するための簿記の作成方法を指導し、貯蓄と投資の重要性も指導している。

また、カナダ国際開発機関(CIDA)の800万バーツの支援により、農産物の取引が行われている首都バンコクでの農産物価格が、農村にいながらオンタイムで分かるオンライン・システムが北部、東北部の各県で導入され、話題を呼んでいる。

このシステムが導入されたのは北部のナコンサワン県、チェンマイ県で2ヶ所、パヤオ県、ランパーン県、東北部のナコンラチャシマ県である。

タイ政府の行っている同様のシステムでは、各地方自治体の機関がインターネットで接続されているが、今回の場合、民間の企業またはコミュニティーと提携し、システム発展の役割を地元の人々に担ってもらおうというねらいがある。

農村の開発政策 ―農村工業化

東北タイのブリラム県では、人口コミュニティー開発協会と協力し、農村開発に力を注いでいる。この地方の最低賃金は日額133バーツ。同県にあるサハグループの子会社であるユニオン・シューズが経営するブリラム・ユニオン・シューズでは、地元の労働者800人を雇用し、農業以外の雇用が少ない農村コミュニティーに雇用の場を提供するとともに、現地の安い労働力によってコスト抑制を行っている。

タイでは20年前から始まった工業化により、農工間の所得格差が拡大し、農民は所得向上を目指して出稼ぎに行くという傾向が定着していた。しかし、1997年の経済危機以降、失業者は農村に戻るか、または海外出稼ぎへと向かった。農村の稲作生産だけでは十分な所得は得られず、世帯主が多額の借金を背負いながらも台湾や中東などに出稼ぎに行き、農村に仕送りをするケースは珍しくない。

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