EU指令案で派遣社員の地位向上

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年5月

派遣社員の待遇を正規従業員と同等にするEU指令案が準備されているが、その素案が明らかとなり、他のEU諸国よりも派遣社員の多い英国の政府と使用者は警戒を強めている。

指令案は、派遣社員の給与、年金、休暇、その他社会保障を正規従業員と同等にすることを狙いとしているが、具体的な中身についてEUが現在モデルにしているのは、派遣社員に就労経験に応じて段階的に正規従業員と同等の権利を付与するオランダの制度である。オランダの場合では、同じ派遣会社のもとで3つの職を経験した場合、あるいは同じ派遣会社のもとで3年間就労した場合、当該派遣社員は正規従業員としての資格を獲得し、団体交渉で決定された賃金を受け取る。

指令の最終案が出るのは5月頃になる見通しだが、いかなる内容で導入されるにせよ、EU全体の派遣社員の半数以上(100万人以上)を抱える英国の使用者にとって、その影響は少なくない。英国の派遣社員の職種は大半が、秘書、受付、データ打ち込みなどの事務職か、工場労働者である。2010年までにEU全体の派遣社員数は現在の200万人から5?600万人になる見通しだ。

英国の受ける影響が大きいのは、派遣社員の数が多いためだけではない。派遣社員に対する規制が他のEU諸国よりも厳しいためでもある。たとえば英国では、派遣社員は不公正解雇に対する申立はできず、また多くの場合、疾病休暇や有給休暇を付与されていない。

これに対し、スペイン、フランス、イタリアを含む一部のEU諸国には、派遣労働の利用を制限する厳しい法律が存在している。ドイツやオランダでは、派遣会社は全国レベルで労組との合意を必要とする。これらの諸国にとっては、新指令はとくに目新しいものではなく、したがって、たとえ英国が指令を骨抜きにしようとしても、それを援護する可能性は少ないと見られている。

こうした動きについて、労働組合会議(TUC)は歓迎の意を表明している。TUCによれば、英国では臨時契約社員が契約を終了させられたうえで、派遣社員としてより劣悪な待遇で再雇用されるケースが見られてきた。使用者のこうした悪しき慣習をなくすのに新指令は寄与するものとTUCは見ている。

一方、使用者らは、労働市場のフレキシビリティーを著しく損なわせるものと強く反発している。使用者にとって派遣 社員は、技能労働者の不足や需要動向の変化に迅速に対応するうえで、きわめて有効だからだ。また、英国産業連盟(CBI)は、派遣元(派遣会社)との雇用関係にある派遣社員を派遣先の正規従業員と比較するのは不適切だと反発している。また派遣労働には、若年層や長期失業者にとって雇用へのルートとして積極的な側面を有しており、したがって新指令は経済全体の雇用創出にマイナスの影響を及ぼしかねないと警告を発している。

政府も使用者と同様の懸念を抱いているものの、今のところ、英国の慣行と大きく齟齬を来さないか指令案の詳細を注意深く検討したいと表明するにとどまっている。

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