労働法の規制緩和法案、下院を通過

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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12月4日、政府提出の労働法の規制緩和法案は、264票対213票で下院を通過した。上院の通過は、来年3月になる見込み。

法案の内容は、概ね下記の通りであり、労使の交渉で、下記のように決めることが可能となる。

  • 憲法の保証する年間30日の有給休暇は、例えば10日毎3回に分けることができる。
  • 第13月賃金と称される年末ボーナスは、月額分割支払いも可。
  • 現在、夜間労働では、52分30秒を1時間として計算しているものを60分とする。
  • 現在、48時間と定められている労働契約の労働手帳記入の期限を延長する。
  • 労働法が定める協定の有効期間を2年とし、さらに延長する。
  • 会社利益に対する労働者の参加分の支払を月払いに分割する。現在は、半期以下の定期性、及び、同一暦年に2回以上、支払いを行うことを法は禁じている。
  • いわゆる労働時間の預金(企業がひまな時は、労働時間を短縮し、忙しいときは労働時間を延長する制度)と称される制度の期間の上限を現在の12カ月以上に延長する。

ドルネーリ労相は、この規制緩和を雇用創出のためと述べている。

労働法の規制緩和と労働関係の将来

サン・パウロ州立大学教授で労働法の権威であるジョゼ・パストーレ教授が、最近発表したところによると、ブラジルは、労働契約の規制が強いため、実に賃金の103.46%の費用が労働契約に課されていると言う。パストーレ教授による主要各国の労働契約に対する費用は下記の通り。

賃金に対する各種負担、費用の割合
ブラジル 102.46%
フランス 79.76%
アルゼンチン 70.27%
ドイツ 60.00%
イギリス 58.80%
アイルランド 56.00%
イタリア 51.30%
オランダ 48.06%
ウルグァイ 45.40%
ベルギー 41.70%
ルクセンブルグ 41.00%
パラグァイ 11.80%
日本 11.60%
デンマーク 11.60%
アジア諸国平均 11.50%
アメリカ合衆国 9.03%

同教授によると、ブラジルの労働契約は労働手帳に記入する公式労働契約を強制し、これに反する契約では、企業に対して制裁が加えられるが、そのため、かえって、非公式の労働契約は、全体の60%に達し、事実上、制度は破綻しているとして、労働法の規制緩和を主張している。

教授によると、労使の間で、交渉不能な企業の費用リストの負担は、FGTS(勤続期間保証基金)負担金、社会保険、教育手当負担金、労働災害保険、Senai(国家工業教育業務負担金)、Sesi(国家商業教育業務負担金)など、賃金の36.30%に達し、有給休暇などの不就労期間の支払(週休、休日、休日手当、休暇手当など)が賃金の38.2、3%に達しているという。

先進国、例えば、アメリカでは連邦法が強制するのは、年金、失業保険、労働衛生などの少数に止め、その他は労使の交渉に任せている。ブラジルは、法律の労働者保護を手厚くして、かえって、法の保護、保健、年金などの一切の利益を享受しない非公式労働者の数を増やし、企業の間接費用を増大させるとともに、直接賃金の圧縮を招いていると言う。

さらに、ブラジルの労働法の硬直性の結果は、訴訟の件数の驚くべき増大に現れている。人口1億7000万のブラジルで、現在、労働裁判所に継続中の訴訟は、300万件に上り、65万人の弁護士が業務を行っているが、日本では、1億4000万の人口で、労働訴訟は1500件、弁護士の数は、1万4000人に過ぎないと述べている。

この論旨には、日本の法曹人口が例外的に少なすぎるという特殊性を無視しているところに問題があるが、ブラジルの労働訴訟があまりに多いため、訴訟の遅延が深刻な問題になっていることは事実である。

以上は、保守系の有力紙オ・エスタード・デ・サン・パウロ紙の紹介によるが、公平のため、同紙は、世界各国の例を挙げて、必ずしも、労働法制の規制緩和がよいことづくめではないと述べている。例えば、ニュージーランドでは、1990年のはじめ、規制緩和の風潮にのって、労働法の規制をほとんど廃止したが、そののち、男女の賃金を始めとする賃金格差の発生、社会福祉の悪化などが顕著になり、10年後、新たに労働法を公布しなくてはならない事態となった。

ペルーでも、フジモリ大統領時代、労働法の規制緩和がなされたが、その結果、失業は減らず、非公式労働者の増加は止まっていない。アメリカ合衆国では、政府が労働契約に干渉しないが、90年代、失業は減ったものの、賃金格差、所得格差が増大した。

しかし、フランス、スウェーデンでは、労働法の柔軟化のもとで、部門別に組合と企業の交渉が行われて、労働条件は向上した。同紙は、これらの例から、労働法の柔軟化、規制緩和による、労働条件の向上のためには労働組合が協力であることが必要であると結論し、現在、国会で問題になっている労働法の柔軟化法案に対して、必ずしも、賛成していない。

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