縫製業における価格、品質競争

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年2月

中国のWTO加盟は、それまで労働集約的な産業で比較優位を得ていた東南アジアの国々を更に一層焦らせるものとなった。タイではとくに繊維・縫製業の経営者が危機感を募らせている。低価格、低品質から低価格、高品質にシフトしつつある中国、そして廉価な労働力を持つバングラデッシュといった競争国にタイは太刀打ちできるのか。

対日製品の場合

2001年上半期の繊維・縫製業の実績をみると、年間170億ドルともいわれる日本市場で、タイの市場シェアはわずか1.7%であるのに対して、中国は76%となっている。タイは対日向けの製品輸出を増大させたいと考えているが、より早い対応で、かつ同品質で低価格という日本の消費者満足に応えなければならない。

三菱・タイランドの丸山副社長は、「かつて日本の消費者は、高品質のものを高価格で購入していた。しかし、1990年のバブル崩壊後は高品質をより低価格で求めるようになった」とし、品質に厳しい目を持つ日本の消費者への対応の難しさを語った。

ナイス・アパレル社のプラソップ社長は、「バイヤーが質と価格に対して年々高い要求を出してくるようになった。バーツが切り下げられて以来、10年前と比べて製品の価格を3~4割も落とさざるを得なくなっている。不良品に対して厳しい目を持つ日本人バイヤーに対しては、質のコントロールが一番の課題だ」と語っている。また中国との競争に関しては、「受注へのすばやい反応では中国に劣るだろう」と話している。

対米、対欧製品の場合

衣料メーカーGAPは、1980年からタイの工場と契約を結び始め、1997年には6000万米ドル、2001年には2億4000万米ドルの取引を行い、タイのアパレル産業においては最大の取り引き企業となった。同社のチュニンハム副社長は、「タイの製造業者は納期が1日の遅れも命取りになることをよく理解している」と語り、スピードと時間厳守、顧客サービスがGAPにとって最重要課題であると述べている。

政府の統計によれば、2001年の繊維・縫製業の輸出額は前年比8%減の31億5000万米ドルと予測されており、有力な輸出先であるアメリカが、テロ後の優遇措置としてアパレル産業の競争国パキスタンやバングラデシュ、インドなどに関税の一時的な引き下げなどを行った場合、タイにとって大打撃となると見られている。

労働集約産業での労働問題

中国を含む多くの発展途上国が、豊富な労働力と廉価な労賃を武器に、世界の市場、特に労働集約的な製品の市場に参入している。タイもかつては上記のような優位性を生かして工業化を果たしてきたが、中国や南アジア、インドネシアなどの後進国と比較すると様々なコストが相対的に高くなってきている。そのため、タイから中国などへの生産のシフトが進み、労働集約的な分野での大量失業が問題となる可能性は高い。実際にそれが機械・電子産業などで目につくようになってきた。

コストの安さ以外の利点をアピールし、質が高く付加価値の付いた製品の生産を進めていくことが、タイの第2の道になりそうだ。

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