最近の雇用動向

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年2月

欧州委員会が作成した雇用に関する報告によると、EU内で過去5年間に創出された雇用1000万人のうち250万人、すなわち4人に1人がスペインで創出されたものであることが明らかとなった。

2000年の欧州における雇用創出は300万人と好調で、雇用面では欧州が米国及び日本に劣るという過去の傾向が一転したかに見える。一方、雇用のサービス部門への集中は明らかで、過去5年間で見た場合、サービス部門で創出された雇用が1000万人、これに対し工業部門での100万人の雇用創出と農業部門での同数の雇用喪失が相殺しあい、計1000万人となっている。

スペインにおける雇用の伸びは、他の欧州諸国と比べても目覚しいものがある。しかしその一方で、スペインの17の自治州のうち、14州は欧州内で就業率が最も低い26地方の中に入っており、残り3州(ナバラ、カタルーニャ、バレアレス)が就業率が中程度のグループ、就業率が高いグループに入る地方は一つもない。またアフリカ北部に位置するスペイン領土であるセウタとメリリャの2自治都市も、就業率が低いグループに入っている。

欧州委員会の報告とほぼ時期を同じくして発表されたILOの調査によると、スペインにおける雇用の安定性は、他の先進諸国の平均をやや下回っていることが明らかになった。これは各国の企業・公的機関で現在働いている労働者のうち、勤続年数が10年を超える労働者の割合を比較したものであるが、平均41.0%に対してスペインでは39.8%となっている。欧州ではフランス、イタリア、ベルギー、ポルトガル、フィンランド、スウェーデンが平均を上回っており、逆にドイツ、デンマーク、アイルランド、イギリスはスペインよりもさらに低い。ちなみに日本は43.2%、最も低いのは米国の25.8%である。

1990年代後半の好況を反映して、勤続年数の長い労働者の割合は全般に増える傾向が見られたが、中でもスペインは平均以上の伸びを示している。これは近年の労働市場改革の成果と見ることもできようが、逆に生産状況に合わせたフレキシブルな雇用を認める政策の結果として有期雇用が急増し過ぎ、雇用の不安定要因が増していることも事実である。スペインにおける有期雇用率は33%に達しており、周辺諸国の14~15%と比べ、かなりかけ離れた数値を示している。政府の諮問機関である経済社会審議会のモンタルボ会長の表現を借りれば、スペインの労働市場の現状は「柔軟」をこえて「危なっかしいほど有期」なのである。

加えて、2001年1月より下降を続けていた登録失業率が8月から再び上昇し始め、特に10月に急上昇を示したことで、労働市場の先行きに対する懸念が強まっている。9月から10月にかけての登録失業者数の増加は5万1452人で、同じ月における増加数としては不況の真っ只中にあった1993年以来最悪となっている。10月から11月にかけても登録失業者数は3万3000人弱増加し、登録失業率は9.22%となっている。

1996年に現在の国民党保守政権が成立して以来、スペインでは雇用の成長と失業の低下が見られたが、これは適切な政策だけでなく、好調な経済に支えられてこそ可能だったといえる。そのため野党や労組、雇用者団体などは、政府が経済局面の変化を正しく把握して対応しなければ、雇用にも影響が出かねないとしている。

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