2002年の団交に向けた労使合意

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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12月20日、スペインの二大労組である労働総同盟(UGT)及び労働者委員会(CCOO)と、スペイン経団連(CEOE)及び中小企業連合(CEPYME)との間で、2002年の集団交渉に向けての合意(ANC2002)が成立した。世界的に経済成長の停滞が懸念される中、労使間の合意は「賃金抑制と雇用の保護」を主軸としたものとなっている。

今回の合意に至る経緯は、最初から労使二者間の交渉という形で始まったものではなかった。まず5月に、労組・使用者団体・政府の間で集団労働協約の改正をめぐる交渉が開始される。ところが、夏休みを経て、9月末より政府(労働省)が急に協約改正を急ぐそぶりを見せ、労使間の交渉が長引くようであれば、政府として一方的に法改正を行う旨、交渉中の労組・使用者団体側に通告してきた。これは具体的には労働者憲章第3編「団体交渉・労働協約」の部分に修正を加えることを意味する。

政府による法改正の主眼は、全国レベルの部門別協約で定めるべき項目と、各企業レベルでの労使合意で定めるべき項目を明示し、また特定企業が部門別協約で合意された内容を守れない場合、部門別協約から「外れる」ための要件をより容易にするというものである。政府の目的を一言で言えば、賃金設定という労働協約の最重要項目をもっぱら企業ごとの枠内でのみ交渉できる項目とし、それによって賃金上昇を抑制することであった。これに対し労組は、賃金交渉を部門別団交で定める方式は長年にわたる戦いのすえに勝ち取った成果であり、どうしても譲れないとの姿勢を示した。

しかし、このような具体的な要求にも増して、政府が労組及び使用者団体の交渉主体としての自立性を軽視し、法改正によって労使関係の世界に介入しようとしたことに対する違和感の方が強かったということもできる。CEOEのクエバス会長は、「アスナル首相は賢明な為政者かもしれないが、労働協約の何たるかを全くわかっていない」とまで述べている。労組・使用者団体は協約を規制する法改正をストップするよう政府に求め、政府抜きで独自に交渉を進める意向を示し、結局政府は10月末にこれを受けいれざるをえなかった。そして12月のANC2002合意成立に至ったのである。

前述したように、ANC2002の基調は賃金抑制である。労組側は政府による2002年のインフレ予測2%を賃金上昇率交渉の際に基準とすることを認め、これに対して使用者側は、労組側が求める「賃金見直し条項」(インフレが予測から大きくずれて上昇した場合、これにあわせて賃金の見直しを行う)を加えることを受けいれた。労使双方とも、政府の仲介に頼らず自力で合意に到達できたことを、多いに誇れるものとして評価している。

労使が交渉によって賃金抑制の方向に合意したケースは1980年代にも前例があり、インフレ抑制という目的に対して一定の貢献を果たしてきたことが知られている。一方、IMFや欧州中銀はスペイン政府に対して、自由化政策の一環として団体交渉の規則そのものを変えるよう提言していたが、それが実際にどれほどの成果をもたらすのかは未知数である。したがって、結局政府としては労使間合意という、古いが信頼できる方法を選んだといえよう。また、政府を加えた交渉から労使だけの自立的交渉へという流れが作られたと見る向きもある。

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