多難な海外出稼ぎ労働者の帰国後の生活
フィリピン政府は、海外での雇用環境が変化したため帰国を余儀なくされた海外出稼ぎ労働者に対する、帰国後の生活の経済的な安定と社会保障に関する政策立案の必要に迫られている。
政府の発表によると、中東の全体で約100万人のフィリピン人が働いていたが、2001年9月の同時多発テロの影響により、既にパキスタンの海外出稼ぎ労働者は帰国し、サウジアラビアの20万人の労働者が契約を更新できない可能性が出てきた。
マレーシアでは、外国人労働者に対する政策変更により、約30万人のフィリピン人労働者が帰国せざるえない状況になってきている。
また、米国では、IT不況と同時多発テロによる国内消費の冷え込みから、今後雇用機会が減少すると見られている。
未整備な海外出稼ぎ労働者の帰国後の生活安定施策
フィリピン政府は近年、労働者を海外に送り出すことに重点を置き、帰国後の生活の安定に関する政策が欠けていた。特に、海外に出稼ぎのため出国したにもかかわらず、収入を上げることなく急遽帰国した労働者に対する帰国後の政策が緊急課題となっている。
政府の見通しの甘さも露見している。政府は今日まで、国内経済の悪化による失業問題と経常収支の赤字への対応策として海外出稼ぎ労働者の本国送金を重要視し過ぎてきた傾向がある。
国連のアジア太平洋地域経済社会委員会の分析によると、2001年の調査結果でも海外出稼ぎ労働者の帰国後の生活は非常に厳しいと分析している。一部のアナリストは、アジア地域の海外出稼ぎ労働者が帰国後生産的な仕事を見つける可能性について悲観的な見方をしている。
これは、現在急に述べられてきたことではない。1997年頃から、一般的にアジア諸国は、海外出稼ぎ労働者の帰国に関する政策が欠如していることが指摘されてきた。
フィリピン政府の海外出稼ぎ政策において、帰国者に対する経済・社会的総合政策は、最も未整備の分野である。共和国法8042条において、帰国を保障しているが、現実的に効果的な政策がない。一部の海外出稼ぎ労働者は、「海外出稼ぎ労働者の本国送金は、フィリピン経済を救済してきたにもかかわらず、帰国時には、出国時と同様な貧困、失業、絶望の中に戻らざるをえない。政府は、帰国に歓迎的ではなく、悩むべき新たな問題要素としてみている」と批判している。
海外出稼ぎ労働者の帰国には、精神的な重圧もある。世界カトリック教徒移民委員会の調査によると、海外出稼ぎ労働者が、雇用の終了、あるいは同時多発テロとそれに対する報復戦争のような突発事件が発生し帰国しなければならない場合、酷い孤立感、精神的重圧、生活への不安、専門技術の習得への不安に襲われると指摘している。
先進地域の取り組み
この問題は、国内経済の発展と総合的な社会保障政策を必要としている。この問題に関する先進的な組織に、香港に本拠地を置くアジア移民センター(AMC)がある。フィリピン政府は、今後こうした組織を調査・研究する必要がある。
AMCによると、フィリピンのいくつかのNGOは、本国復帰に関する取り組みを始めている。その中の一つ、アンラッドカバヤンは、カガヤン・バレー地方等で本国復帰後の生活支援事業に成功している。
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