米越通商協定、2001年中にも発効

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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アメリカのブッシュ大統領は2001年10月18日、9月に下院、10月初めに上院を通過していた米越通商協定に署名した。ベトナム外務省スポークスマンは、ブッシュ大統領の署名を歓迎し、同協定の早期批准を検討すると述べた。また、国会関係者は、2001年11月中旬から12月にかけて開かれる国会で同協定を批准し、同協定の発効が間近であるとの見通しを示している。

1975年のベトナム戦争終結後、1995年に国交正常化した両国が、経済面でも通常の通商関係を築いていくことになる。米国は、ベトナムに通常貿易関係(NTR)を供与し、これを1年ごとに見直す。ベトナムは、世界最大規模の米国市場で諸外国と対等な条件で競争できることになり、ベトナム製品の多くの品目に対する米国の輸入関税が、直ちに約40%から約4%に低下する。このため、アジア諸国を中心とした外国投資家の間にも、ベトナムの同協定批准を待って、ベトナムに生産拠点を移し、米国への輸出を増加させようとする動きがある。

一方、長期的には米国企業がベトナムでベトナム企業と対等な条件でビジネスを行うことができるようになる。同協定は、ベトナムに、農産物など約250品目の輸入関税の3割~5割削減、金融・通信などの市場開放、外国投資企業への規制緩和、法規制実施の透明化などを迫っている。例えば、経験豊かな米国銀行は、現地通貨ドンでの預金受入額に関する上限の撤廃、クレジットカード発行許可、支店以外の場所での自動現金預け払い機の設置許可などの規制緩和について、明確な実施時期を約束される。このため、米国銀行は、他の外国諸銀行に比べて有利な立場に立つことができる。さらに、同通商協定は、もしもベトナムが第三国と通商協定を結んだ場合、米越通商協定に定められた条項が第三国との新通商協定に含まれると定めている。

ベトナム輸出企業は、米国経済が景気後退期にはいったものの、対米輸出が急増すると見込んでいる。米国はベトナムに対し1994年まで経済制裁を行っていた。しかし、その後対米輸出額は95年の1億7000万ドル、98年の5億8870万ドル、2000年の7億3200万ドルと大幅に増加している。専門家の予測によると、繊維・衣服産業が最も対米輸出増の見込みがある。これらの産業の米国への輸出額は既に急増しており、99年に7100万ドル、2000年には6億1900万ドルとなっている。しかし、これは、米国の繊維・衣服製品の年間輸入額510億ドルに比べると僅かであるため、ベトナム繊維・衣料公社(Vinatex)経営陣は、協定発効後間もなく、同産業が年10億ドルの対米輸出を達成できると予測する。同社は、1年前から香港、ニューヨークに支社を置き、新通商協定に備えている。多くの民間企業、外資企業は、12月から新通商協定下で輸出できることを期待している。

2001年の1月~8月の対米輸出額は7億1600万ドルと、昨年同期比50.9%増加した。しかし、その多くが海産物、コーヒー、原油などの1次産品である。今後、工業製品の米国への輸出を進めるためには、品質の向上、市場調査、米国の法理解などに一層の努力が必要となる。その一方で、次第に米国に開放される製品・サービス市場は、非効率な国有企業に経営改善を迫ることになる。しかし、最近設立された中小企業の多くは、国からほとんど保護を受けていないだけに、その中から、市場構造の変化をとらえて成長する企業が生まれ、新規雇用をもたらす可能性がある。米越通商協定の関税引き下げや市場開放はWTO基準に準じており、ベトナムは、最近WTO加盟を果たした中国の成功、失敗から、多くを学ぶことになるであろう。しかし隣国中国は、外資の投資先、対米輸出、ベトナム国内市場における競争相手でもある。ベトナムは勤勉で比較的低い労働コストだけに頼らず、職業能力開発、市場開放、法整備、産業育成、農産物の効率的生産などを促進する必要がある。

世界銀行は、ベトナムが次の半年間で、良好な経済パフォーマンスを達成するには、次の3点が重要と指摘している。(1)貿易政策、民間企業育成策、国有企業改革、銀行改革、公的支出管理政策を成功裡に実施。(2)米越通商協定発効後に、輸出増、GDP成長率の上昇を達成。(3)諸改革を補完する公共投資の実施。

実質GDP成長率(%)予測
1998 1999 2000 2001 2002
政府公式推計 5.8 4.8 6.7 7.1 7.5
世界銀行推計 4.0 4.8 5.5 4.9 5.8

出所:世界銀行

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